週刊エコノミスト Online書評

可能性広がる無人書店 トーハンに続き日販も開店へ 永江朗

 取次大手の日本出版販売(日販)が完全無人書店を開店する。商業施設や文化施設などの空間デザインを手がける丹青社との連携事業だ。場所は東京メトロ溜池山王駅(東京都千代田区)構内で、名称は「ほんたす ためいけ 溜池山王メトロピア店」。2023年秋にオープン予定。

 溜池山王駅がある赤坂・溜池の周辺には、かつてさまざまな書店が集まっていた。文鳥堂書店、東京ランダムウォーク、金松堂書店。ナショナルチェーンの三省堂書店や文教堂書店も。以前からメディア業界で働く人が多い街だった。TBSの本社があり、近隣には番組制作会社などのオフィスも集まる。08年には博報堂本社が神田錦町から移ってきた。

 ところが、この十数年の間に書店が相次いで閉店してしまった。現在は独立系書店として知られる双子のライオン堂と幸福の科学関連のブックスフューチャーぐらいしか残っていない。日販が実験的な書店を始めるには最高の立地だろう。溜池山王駅には銀座線と南北線が乗り入れるほか、丸ノ内線と千代田線の国会議事堂前駅と改札内で接続している。

 日販のライバル会社のトーハンは、すでに23年3月から無人書店の実証実験を行っている。東急世田谷線松陰神社前駅近くの山下書店世田谷店(東京都世田谷区)で、溜池とは対照的な住宅街にある。こちらは昼間は有人で営業し、夜間は無人になるハイブリッド型だ。無人営業中はLINEによる会員登録とQRコード読み取りで解錠して入店し、セルフレジで購入する(キャッシュレス会計)。「ほんたす」の詳細についてはまだ不明だが、おそらく同じような使い方になるのではないか。山下書店世田谷店の無人営業は好調で、客単価は有人営業の昼間よりも高いという。

 書店が廃業していく大きな理由は、人件費に見合う売り上げがないことや後継者不足だが、無人書店はその解決策となるかもしれない。セルフレジやキャッシュレス会計はさまざまな分野で広がり、利用者の抵抗感も低くなっている。また、完全無人でなくても、従業員が接客から解放されれば、仕入れや陳列に力を入れることができる。無人化にはさまざまな可能性がある。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2023年9月5日号掲載

永江朗の出版業界事情 東京・溜池山王駅構内に無人書店オープン

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