ショーケンと水谷豊の自伝にアメリカの光と影を読む 井上寿一
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1970年代に20歳前後だった若い男たちにとって、テレビドラマの「傷だらけの天使」(74年10月~75年3月放送)は、人生のバイブルではなかったか。このドラマがアメリカン・ニューシネマの「真夜中のカーボーイ」(69年)の影響を受けていたことはよく知られている。アメリカの影響はドラマだけでなく、「傷だらけの天使」の2人の主人公を演じた萩原健一と水谷豊の実人生にも及んでいる。
萩原健一著『ショーケン最終章』(講談社、1650円)によれば、進駐軍向けのジャズクラブに通って黒人のブルースに慣れ親しんだ萩原少年は、長じて米国で開催された「ウッドストック・フェスティバル」に出かけた。「ラブ・アンド・ピース」「ベトナム戦争反対」の雰囲気の中で、反体制の音楽としてのロック・ミュージックを目指した。グループサウンズは不本意だった。
水谷豊もそうである。『水谷豊自伝』(水谷豊、松田美智子著、新潮社、1980円)によれば、米軍基地の街で育った彼は、アメリカのテレビドラマに関心を持ち、のちにアメリカン・ニューシネマの「俺たちに明日はない」に強く引かれ、また「真夜中のカーボーイ」のダスティン・ホフマンの演技に注目した。
水谷は、高校卒業後はアメリカに留学するつもりだったが、その夢はかなわなかった。しかし、23歳の時の最初の海外旅行先はアメリカだった。滞在中は人種差別や治安の悪さを知ったが、それでもアメリカ(特にロサンゼルス)が好きになり、以後何度となく訪れることになる。
このように、2人は70年代のアメリカの光と影を実地で体験している。単純な憧れではなく、屈折した対米感情でもない。テレビや映画での2人…
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週刊エコノミスト
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