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教養・歴史 著者に聞く

社会の分断を克服する一助として日本人向けに書いた書(編集部)

『ソーシャルジャスティス 小児精神科医、社会を診(み)る』

著者 内田舞さん(小児精神科医)

「しずかちゃんにはなれない」からアメリカへ

 カバー写真を見てほしい。2021年1月、第3子妊娠中の内田舞さんが新型コロナワクチンを接種した直後に撮影されたものだ。このあと内田さんは思いがけずワクチン接種の啓蒙(けいもう)活動に取り組むことになる。

「科学的根拠のないワクチン否定論がアメリカで横行し、そうした圧力のために多くの人が接種の機会を逃しては大変だと考えたんです。私は医師で同時に妊婦という立場で、世界中でも最も早い頃にワクチンを打った人間です。同じような立場の人はほとんどいなかったし、自分がやるしかないと覚悟しました」

 所属病院が「妊婦の医師もワクチンを受けている」とSNSで発表したことで一気に注目が集まり、そうなると「妊婦がワクチンだなんて」と誹謗(ひぼう)中傷の声も出てくる。

「私はワクチンを接種するリスクとしないリスクを冷静に比較検証し、しないリスクの方がはるかに大きいと判断して自信を持って接種しました。ところがこれが思い込みに基づいた攻撃の的になってしまう」

 内田さんは小児精神科医で脳科学者、米ハーバード大学医学部准教授であり、3人の男の子の母親でもある。本書はその内田さんが、なぜ炎上という現象が起きるのか、人々のあいだにある差別と分断を乗り越えるにはどうしたらいいのかについてつづったものだ。そして「どうしてもこのタイトルにしたかった」という「ソーシャルジャスティス」。

「ソーシャルジャスティスとは、どんな人にも均等に機会と権利が与えられ、その人が輝いていられる状態のことだと思います。私は07年に渡米しましたが、外から見ていると今の日本は非常に変化しにくい状況にあるように思います。違和感を覚えても声に出しにくく、それこそソーシャルジャスティスなんて言ったら、大上段から理想論を発…

残り479文字(全文1279文字)

週刊エコノミスト

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