新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

国際・政治 中国危機

中国ビザ取得に最低1カ月 入国後もネット接続やキャッシュレス決済で一苦労 高口康太

 コロナ禍前、その気になれば当日に飛べた中国。状況は様変わりした。ビザを取得するまで1カ月かかり、現地でも支払いに苦労するのだ。

>>特集「中国危機」はこちら

「中国のビザが取れない!」

 最近、中国に出張する用があるビジネスマンや研究者に会うと、必ずといっていいほど聞く言葉だ。

取得するのが難しい中国ビザ(画像を一部加工しています)筆者撮影
取得するのが難しい中国ビザ(画像を一部加工しています)筆者撮影

 中国政府は中国に渡航する日本人にビザ(査証)の取得を免除してきたが、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年3月、免除措置を一時停止した。それから3年半、再開する兆しはない。

 今年6月22日付の『朝日新聞』によれば、中国外務省の呉璽領事局長は21日、この件について日本側と交渉しているとし、「相互主義の原則に基づいて進めたい」と述べた。「中国が日本人にビザの取得を免除するなら、日本も中国人に免除すべき」という意味だ。

 先進国は不法就労を目的とする外国人の入国を防ぐため、発展途上国の国民にビザの取得を義務付けることが多い。ただ、日本政府は訪日観光客を増やすため、1人当たり国内総生産が中国より低いタイやインドネシアなどの国民にもビザ免除措置を導入している。

 中国政府が相互主義の大義名分を持ち出せば、理屈の上では中国側に分があるともいえる。それでも日本政府が中国人向けにビザ免除を決められないのはさまざまな政治的理由があるからだろう。ビザを取得しなければ中国に行けない状況は続きそうだ。

早く予約する裏技

 中国ビザの取得は面倒だ。まず、ビザの申請を決めてから実際に申請できるまで1カ月程度かかる。7月下旬、在日中国領事館が東京・有明に設けた「中国ビザ申請センター」のウェブサイトを確認したところ、最も早く申請できるのは8月末だった。ほかに大阪市と名古屋市の計3カ所あるセンターのサイトをこまめにチェックすれば、もっと早く空きが見つかることもあり得るが、それを知るにはサイトに張り付く必要がある。

 サイトで予約できても安心できない。センターはすさまじく混雑し、予約した時刻に申請できないことがあるからだ。私は東京のセンターであふれかえる人々、疲れていらだつ警備員、やる気のない窓口の職員を見て、「まるで1990年代の中国の駅みたいだ」と思った。同じセンターで申請した知人は「10時間ぐらいかかった」と嘆く。

 もっとも、私は“裏技”を使って申請の予約を都内の中国系旅行代理店に依頼した。手数料が1万円以上かかるが、1カ月も待たされずに予約できる。代理店には申請者のパスポートが山積みになっていて、相当もうかっている様子だった。

 申請日の予約は代理店に頼めるが、申請自体は本人がセンターに出向く必要がある。指紋を登録し、申請書類の顔写真を本人と照合する必要があるからだ。ビザの発給は申請から平均で1週間程度かかり、受領のために再びセンターに出向く必要がある。結局、ビザを手にできるまで1カ月以上はかかると覚悟したほうがいい。

人けの少ない天津空港構内(5月)筆者撮影
人けの少ない天津空港構内(5月)筆者撮影

 航空運賃が高止まりする中、ビザの申請に費用と労力がかかるとあっては、多くの外国人は中国行きをためらってしまう。中国国家移民管理局の発表によると、外国人の出入国者数は1~6月の間、843万8000人(香港、マカオ、台湾の住民、国境付近に住む外国人を除く)。新型コロナの影響がなかった19年1~6月は3097万人だったから73%減だ。一方、日本の出入国管理統計を基に1~6月の外国人出入国数を計算すると、19年同期比で33%減だった。中国の出遅れは否めないだろう。

現金はダメ

 中国に入国した後も中国ならではの苦労がある。

 一つ目は、中国政府によるインターネットの検閲だ。中国では「グーグル」(「Gメール」などを含む)、「フェイスブック」、外国のニュースサイトの多くに接続できない。パソコンで仕事をする人は「VPN(仮想専用線)」という検閲を回避するソフトウエアを渡航前にインストールする必要がある。日本の携帯電話のローミングサービスを使う方法もある。検閲を受けずにネットに接続できる。

 二つ目は、中国の飲食店やタクシーなどで代金を支払う手順だ。5月と7月に中国を旅した私の経験では、蘭州ラーメンのチェーン店で食事後、現金で支払おうとしたら延々と待たされたことがあった。店員が現金を受け付ける方法を知らなかったようだ。別の店で「レジに現金がないので釣りはQRコード決済で」と言われたこともあった。「ペイペイ」「楽天ペイ」と同機能のスマートフォン用アプリのことだ。

 国外で発行されたクレジットカードは使えないことが多い。「ビザ」や「マスターカード」だけでなく、中国ブランドの「銀聯カード」も同じだ。中国を旅行するため、日本の銀行で同カードを手に入れた知人は「使える場所がほとんどなかった」と肩を落としていた。

 渡航前に中国のアプリをスマホにインストールしようとしても、一筋縄ではいかない。中国のアプリの大半は身分証(政府が中国に住む国民全員に発行する身分証明カード)を使って実名認証する仕組みになっている。身分証を持っていない外国人は、外国人でも使え、クレジットカードとひも付けできるアプリを選ぶしかない。QRコード決済アプリ「支付宝(アリペイ)」、配車アプリ「滴滴出行(DiDi)」の国際版(日本版とは異なる)、ホテルや鉄道の予約アプリ「Trip.com」が該当する。

7月の小売売上高は前年同月比2.5%増と大幅に鈍化した(天津市で5月)筆者撮影
7月の小売売上高は前年同月比2.5%増と大幅に鈍化した(天津市で5月)筆者撮影

「支付宝」と「微信支付」(ウィーチャットペイ)の運営会社は最近、外国発行のクレジットカードでチャージ(入金)を可能にすると発表した。店での買い物のほか、タクシーなどでも利用できるようになり、メリットは大きい。変更の背景には中国政府の「訪中する外国人を増やしたい」という思惑があるのだろう。22年末にゼロコロナ政策が終了した後、地方政府は競って外国に使節団を派遣し、対中投資を呼びかけた。景気減速に悩む中国にとって今、のどから手が出るほど外資が欲しい。

 中国公安省は8月3日、ビザの発給要件を緩和した。ビザの申請が間に合わないビジネス渡航者向けに到着時ビザ(口岸簽証)の発給要件を緩和したと発表。ただ、出張先の招聘(しょうへい)状や証明資料が必要となる。仕事のタネを探しにぶらりと旅したい人は使えない。

 ネットを介して情報が飛び交うようになったとはいえ、もっと簡単に互いの国を体感できる世界に戻ってほしい。

(高口康太・ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年9月5日号掲載

中国危機 近くて遠い国 中国出張者はつらいよ! ビザは1カ月待ち、現地でも大変=高口康太

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

11月26日号

データセンター、半導体、脱炭素 電力インフラ大投資18 ルポ “データセンター銀座”千葉・印西 「発熱し続ける巨大な箱」林立■中西拓司21 インタビュー 江崎浩 東京大学大学院情報理工学系研究科教授、日本データセンター協会副理事長 データセンターの電源確保「北海道、九州への分散のため地産地消の再エネ [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事