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教養・歴史 『週刊エコノミスト』が生まれた時代

➂軍縮から再び軍拡へ 板谷敏彦

 昨年末、これまで慎重に議論を重ねてきたはずの反撃能力(敵基地攻撃能力)の保持や防衛費の対GDP(国内総生産)比2%への増額などの項目が、ロシアのウクライナ侵攻や米中・台中間の緊張によってあっさりと決定してしまった感がある。

 一方で、今から約100年前の1922年、当時の三大海軍国である英米日は、膨れ上がる軍事費を少しでも抑制するためにワシントン海軍軍縮条約を締結した。ここで軍縮と軍拡の歴史を見ておこう。

 第一次世界大戦開戦の一つの大きな要因に、英独による海軍建艦競争があった。しかし、この戦争は18年にすでに終了し、ドイツ艦隊の消滅で終わったはずであった。しかるになぜ、それから4年後の22年の段階で各国は財政難になるほどの予算を海軍につぎ込んでいたのであろうか。

「戦艦(バトルシップ)」という艦種の登場は1892年の英国戦艦ロイヤル・ソブリン級を嚆矢(こうし)とする。日露戦争の日本海海戦で活躍した戦艦「三笠」とほぼ同クラスである。

 当時は鋼板や大砲、機関などの建艦技術が日々新たになる革新の時代で、少し古臭い艦艇ではまったく歯が立たなくなったので、主要各国とも常に新しい艦隊を建設する必要に迫られていた。

 特に当時の覇権国英国に対する新興国ドイツは、英国に対抗して艦隊建設に励んだ。

 1906年、日露戦争の戦訓を取り込んだ最新の英国戦艦「ドレッドノート」の登場は画期的で、主砲が従来型の4門から10門に増えただけでなく、主機関も蒸気レシプロからタービンへと進化し、速度が速くなっていた。あまりに画期的だったので、「ドレッドノート」は「ド級戦艦」として、戦艦の基準になったのである。

戦艦建造で軍事費膨張

 各国は艦隊を刷新する必要に迫られた。また「ド級」を超える「超ド級戦艦」も登場し、折からの石炭から石油への燃料転換も影響して、各国は常に新型戦艦を建造する必要に迫られたのだ。

 帝国陸海軍は日露戦争終結後の07年に「帝国国防方針」を策定する。ここで陸軍はロシアを仮想敵国として50個師団体制、一方でロシア艦隊を撃滅して具体的な敵を失った海軍は敵国として米国を挙げ、排水量合計50万トンの戦艦8隻、巡洋艦8隻の八八艦隊を計画した。

 陸軍と海軍の敵国が異なるなどありえない話であるが、これ以降、陸海軍は官僚化した国家組織間の予算争いの景観を呈するようになったのである。

 しかしながら日露戦争後は、戦中に発行した戦時公債に対する財政的負担で日本には予算がないため、計画を具体化できないままでいた。

 そして、そこに訪れたのが14年に始まった第一次世界大戦である。戦地から離れた日本と米国は貿易で潤い建艦に資金を出せるようになった。

 日本では17年から20年にかけて八八艦隊が建造費5億6500万円で予算化された。一方で、ドイツ海軍による通商破壊作戦で海軍力充実を迫られた米国は、対日本海軍も意識しつつダニエルズ・プラン(16年度海軍法)を策定、157隻81万余トン、建造費5億8800万ドル(11億7600万円、当時は1ドル=2円)の大建艦計画案が議会を通過した。

 ここで、日本の陸海軍費と総歳出に占める軍事費の比率を見ておこう(図1)。シベリア出兵などは特別会計として別計上である。

 第一次世界大戦中の15年から軍事費が増加し始めた。海軍は特に顕著で、20年に恐慌があってもその増加の勢いは止まらなかった。21年には歳出に占める軍事費比率は49%に達し、特に海軍だけでも32%あった。戦時中でもあるまいし、何らかの手を打たなければならない事態となった。

 米国においても同様に戦後の恐慌は深刻で、議会…

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