異端の宗教学者・山折哲雄「欲望追求の西洋思想は破綻している」(2011年11月1日)
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週刊エコノミストは、各界の第一人者にロングインタビューを試みてきました。2004年から「ワイドインタビュー問答有用」、2021年10月からは「情熱人」にバトンタッチして、息長く続けています。過去の記事を読み返してみると、今なお現役で活躍する人も、そして、今は亡き懐かしい人たちも。当時のインタビュー記事から、その名言を振り返ります。※記事中の肩書、年齢等は全て当時のままです。
異端の宗教学者・希望郷いわて文化大使 山折哲雄
ワイドインタビュー問答有用(2011年11月1日)
戦後、アジアで唯一、欧米先進国の仲間入りをした日本。だが、そのお手本とした西洋の生き方や価値観が行き詰まってしまったと山折哲雄さんはみる。改めて日本人のDNAに受け継がれている仏教的な価値観が求められているという。(聞き手=濱條元保・編集部)
「明治以降、とくに戦後の日本は西洋文明の影響を受け過ぎました。その結果、日本人は自分の欲望を満たすことばかり考えるようになってしまった」と山折さんは嘆く。そして、「無限の欲望は実現されることはなく、いつか必ず自然から復讐を受ける。東日本大震災でそれを体験することになったのです」という。
西洋文明は犠牲を前提にした生き残りの思想
── 西洋文明の何が問題ですか。
山折 犠牲を前提にして生き残りを図る思想が根本にあるからです。象徴的なのが、旧約聖書に登場する「ノアの方舟」。神が地球上に大洪水が発生すると予言し、選ばれた者だけが助かるという、選民思想や進化論につながる物語です。これは、できる限り多くの人間を生き残らせようという欲望に基づく思想です。西洋ではこうした思想の下、政治体制や経済システムが形成されました。
福島原発事故でも、この思想をうかがい知ることができます。事故現場の作業員50人を米メディアがいち早く「フクシマ・フィフティーズ・ヒーロー」と報じました。ここには、作業員の命が犠牲になっても事故を食い止めるべきだという考えが貫かれています。
── 自分たちが生き残るための犠牲者とする発想は、日本人には違和感があると思います。
山折 同感です。だから、日本のメディアはこの「ヒーロー」を使うことをやめた。けれども、西洋文明や欧米資本主義を取り入れたからこそ、日本人は現在の便利で豊かな生活を享受しているではありませんか。そのことにはほとんど触れない。
── すると、この違和感はど…
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