従来型AIと生成AIの組み合わせでAIはさらに進化 長谷佳明
独立行政法人情報処理推進機構(Information-technology Promotion Agency, JAPAN 通称IPA)が、2023年2月に公開した「DX白書2023」によれば、すでに日本企業の22.2%が、AIを活用している(「全社で導入」「一部の部署」を合計した割合)。
たとえば、金融機関などで急速に広まった手書き文字認識や、小売業を中心に拡大しているAI発注のような活用例がある。これらは認識系AI、データ分析AIと呼ばれており、AIではあるものの、チャットGPTのような「生成AI」とは異なる。ここでは「生成AI」と区別するため、認識系やデータ分析に関するAI技術を「従来型AI」と呼ぶこととする。
開発の目的が異なる従来型と生成AI
では、「従来型AI」と「生成AI」は、いったい何が異なるのであろうか(図1)。
従来型AIは、主に認識や予測に用いられてきた。たとえば、製造業における検品の工程をAIに置き換えるために、良品と不良品の画像の特徴を繰り返し学習し、不良品を検出できるようにする。従来型AIの効果は、ある決められた行為の自動化である。開発の目的は「確定的」で、AIは入力されたデータから定められた解を探す。
一方で生成AIは、文章をわかりやすくまとめるような生産行為からイラストを創り出すような創造的な行為など多岐に及ぶ。その特徴は、新しいアウトプットを生み出すことにある。また、開発の目的は必ずしも確定的ではない。どちらかと言えば「不確定的」である。チャットGPTのような汎用(はんよう)性の高いテキスト生成AIを例に挙げると、入力文に続く、次の文をひたすら学習している。そこに、後続の文を予測するという「機能」はあるが、何を予測するのかなど具体的な目的はない。
生成AIは、無数の例題からデータの生み出すパターン(「型」)を学習している。内容も書き手も異なる、さまざまな文の予測を繰り返す過程で、パターンは幾重にも重なり、いつしかパターンの集合体は、特定の概念や意味を捉えた「知識」を構成していると考えられる。
この知識のおかげで、生成AIは、入力されたデータに応じて、学習時に獲得したどのパターンに近いか類推し、その先を予測できる。パターンが汎用的で高度であるため、私たちにとって、生成AIは、まるで学習によって獲得した知識を活用して解を考えているように感じられる。
絵本をほぼ自動的に作るシステム
特性の異なる、従来型AIと生成AIの活用法はどうなっていくのか。今後の発展を示唆する興味深い事例を一つ紹介する。
2023年2月27日、福岡工業大学は、システムマネジメント学科に所属する前原秀明研究室が、複数のタイプの異なるAIを組み合わせ、絵本を「ほぼ自動製作するシステム」を開発し、日本バーチャルリアリティー学会などで受賞したことを公表した(図2)。
このシステムは、「はじまりの文」を人が入力すると、rinna(りんな)社(東京都渋谷区)が開発した日本語に対応したテキスト生成AI「japanese-gpt-1b」を活用し、続きの文章の候補を複数個作り出す。さらに、日本のスタートアップ企業・ユーザーローカルの開発したテキストマイニングAIによって、人がどう感じるか、候補の文章などを評価する。最もスコアの高かった文章が、絵本の続きとして採用される仕組みである。
その後、文章に適した挿絵の候補をオープンAIの画像生成AI「DALL-E」によって複数枚、生成する。文章と同様に、この画像をドイツのトリアー大学が開発する画像評価AI「VL-T5」によって、文章にある物体がどれだけ含まれているかなど、文章と画像との整合性を評価し、最適なものを選ぶ。この行為を複数回繰り返すことで、絵本の続きを自動的に作り出すシステムを構築した。
人間の作業を代替する範囲が広がる
生成AIのアウトプットを、人がその都度、評価していては生産性の向上は限られる。しかし、従来型AIが人の行為を代替すれば、自動化できる範囲は拡大する。生成AIが「考えた複数の案(解の候補)」を出し、それを従来型AIが「評価」すれば、これまでできなかった知的な業務も自動化できる可能性がある。
また、AIによってデータ分析した数値を生成AIが受け取り、その意味を「読み解き」、具体的なアクション案を検討するなど、人がこれまで担ってきた高度な判断の支援にも活用できる。
生成AIは今後、一足先に普及しはじめた画像認識やデータ分析のような従来型AIと組み合わせて活用されるようになる。システムインテグレーターには、生成AIと従来型AIとを巧みに組み合わせ、業務を自動化したり高度化したりする「AIシステムインテグレーション」が求められる時代になるだろう。