テクノロジー 最前線! AIの世界

生成AIでロボットはより賢く 自ら考えて行動するロボットの可能性 長谷佳明

新商品をPRする平野レミさん(左)とロボットの「AI平野レミロイド」=森永乳業提供
新商品をPRする平野レミさん(左)とロボットの「AI平野レミロイド」=森永乳業提供

 2025年、日本では20年ぶりに大阪市で「大阪・関西万博」が開かれる。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。未来を見据えたさまざまな新技術が披露される。AIとの関連で注目されるのはロボットだ。会場では、ロボットによって運営されるコンビニエンスストアや飲食店なども設置され、人とロボットが共生する未来社会を世界に発信する場となる。

 ロボットは、溶接や部品の組み立てなど主に工場で使われる「産業用ロボット」と、それ以外の「サービスロボット」に分類される。サービスロボットは、米iRobot社のルンバをはじめとした家庭用掃除機を除き、これまであまり普及しなかった。

 しかし、2010年代初めのディープラーニング(深層学習)の登場によって、画像認識などの認識系AI技術が急激に進展し、自動運転に関連したセンサーやソフトウエアの開発も加速した。同時にコモディティー化も進み、自動車産業などで育成された技術は、他の産業へと波及していった。

建設工事が進む大阪・関西万博会場=大阪市此花区で2023年10月6日、川平愛撮影
建設工事が進む大阪・関西万博会場=大阪市此花区で2023年10月6日、川平愛撮影

 また、コロナ渦の中では、非接触を売り物とした技術の試験的な導入が始まった。最近は、サービス業を中心とした人手不足により、ファミリーレストランでは配膳ロボット、都心のオフィスでは警備ロボットなどを見かけることも珍しくなくなっている。コロナウイルスによる世界的な環境変化をきっかけに、人とロボットとの共生が、万博より一足先に、思わぬ形で実現し始めたことは興味深い。

会話能力が未成熟だった「ペッパー」

 では生成AIは、サービスロボットにどのような可能性をもたらすだろうか。一つは、コミュニケーション能力の「真価」を発揮することである。

 サービスロボットとして、かつて大きな話題を集めたのが、2015年6月にソフトバンクロボティクスによって発売された「Pepper(ペッパー)」である。身振り手振りを交えた接客により、飲食店や自動車ディーラーなどで導入された。

介護現場でのレクリエーションを想定し、準備体操の動作を始める人型ロボット・ペッパー=国際福祉機器展で有田浩子撮影
介護現場でのレクリエーションを想定し、準備体操の動作を始める人型ロボット・ペッパー=国際福祉機器展で有田浩子撮影

 しかし、肝心の会話能力が当時のAI技術では未成熟で、残念ながら効果は限定的だった。接客では、決まりきったことを説明したり、案内したりするだけなら、デジタルサイネージやタブレットに表示するだけで十分なためである。

 今後は、大規模言語モデルのようなテキスト生成AIと組み合わせることで、人間との会話をより深く理解し、気の利いた接客が可能な、真のコミュニケーションロボットに進化する可能性が高まっている。

期待の「AI平野レミロボット」

 進化は確実に進んでいる。森永乳業は2023年9月、料理愛好家の平野レミさんに似せた外見を持つ人型ロボットと、生成AIのChatGPTを組み合わせた「AI平野レミロイド」を公開した。

 同社の商品のプロモーションを目的に開発されたロボットだが、東京工業大学発のスタートアップ企業「CoeFont」により、平野さんの声を忠実に再現するなど緻密に作り込まれている。試食会の販促や営業のための実験的試みではあるが、生成AIを組み合わせたコミュニケーションロボットの好例といえるだろう。

 また、長らく研究開発が進められてきた夢のサービスロボットに、「生活支援ロボット」がある。新聞を取りに行ったり、椅子を引いたりするような、身の回りの生活をサポートするロボットである。生活支援ロボットには、画像認識などの周辺環境を正確に捉える能力に加え、人と生活を共にするための状況判断や行動計画の策定が必要になる。

世界的なロボットの技術競技大会「RoboCup 2023」で準優勝した九州工業大学のチーム=九州工業大学のホームページから
世界的なロボットの技術競技大会「RoboCup 2023」で準優勝した九州工業大学のチーム=九州工業大学のホームページから

 SF映画では、人間の主人公が、相棒のアンドロイドにちょっとした身の回りの手伝いをさせるというようなシーンを見かける。たとえば、「何か飲み物を取ってきて」とお願いされれば、アンドロイドは自らが置かれた状況を前提に、相手の言葉の意図を理解し、冷蔵庫から冷えたジュースを持ってくるなどの目的を設定する。アンドロイドは、目的から行動を計画しなければならないのだ。

生活支援ロボットが進化

 この分野で成果を見せたが、九州工業大学の田向権(はかる)教授の研究室だ。23年7月、世界的なロボットの技術競技大会の「RoboCup 2023」で、田向研究室のメンバーなどからなるチームが「@ホームリーグ」において準優勝した。このリーグは、家庭やオフィスのような生活空間で、部屋の片づけや朝食の準備などのタスクを人間と生活支援ロボットとが協力して解決する際の正確性や所要時間などを評価する競技である。

 開発したロボットは「タムタムGPT」と呼ばれ、生成AIが組み込まれており、ロボットがパートナーである人間の言葉の意図を解釈し、自ら考え、行動計画を「生成」する。これまでロボットの課題であった、計画策定の機能が生成AIによって高度化され、また一歩、SF映画のアンドロイドに近づいたといえる。

 認識系AIの進化により、身近な存在になったサービスロボットであるが、今後は、生成AIによって、より高度な判断が可能となり活用先はさらに広がっていくだろう。冒頭触れた、大阪・関西万博の目玉の一つが、ロボットによる未来のサービスの「実演」であることは間違いない。予想外の生成AIの急激な進歩は、未来を語る上での格好の「材料」となった。万博でどのような未来像が描かれるか、世界中の人々が楽しみに待っている。

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