服から服をリサイクル 繊維の循環システム確立へ 具志堅浩二
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使用済み繊維製品を再資源化する循環システムづくりが進む。未解決の課題もあるが、そこに「ビジネスチャンス」を見いだす向きもある。
実用化の課題は多いが商機も
わが家で衣類を捨てる際、自治会の資源回収に出す他、Tシャツなど吸収性が高いものは小さく切ってウエス(雑巾)として使う。皿の油汚れの除去などに使えて重宝するが、使い終われば燃焼ごみとして捨てるので循環利用とはいえない。
環境省の資料によると、2020年に廃棄や資源回収などで日本の家庭から手放された衣類75・1万トンのうち、66%が廃棄されたという。つまり、家から出ていった衣類の3分の2はごみとなっている。
昨今、海外では繊維業界に環境配慮を求める動きが出ている。欧州委員会は22年3月に「持続可能な循環型繊維製品戦略」を公表。30年までに、EU市場で売られる繊維製品が長寿命かつリサイクル可能で、大部分が再生繊維で作られることなどを目指す。
こうした動きを受け、日本国内でも衣類を含む繊維製品の資源循環システムの確立を通じて、繊維業界の国際競争力を維持・確保するため、経済産業省と環境省が有識者らで構成する「繊維製品における資源循環システム検討会」を設置。23年1~7月の間に6回の会合を開催し、「回収」「分別・繊維再生」「製造」「販売」という資源循環の4段階それぞれの現状と課題を協議してきた。
例えば「回収」では、資源回収を実施できていない自治体が存在することや、消費者に使用済みの繊維製品がリユース・リサイクル可能な「資源」であることが十分知られていないことなどが指摘された。「分別・繊維再生」では繊維から繊維に戻す、いわゆる「繊維to繊維」リサイクル技術の確立や、回収衣料の分別の生産性向上などが課題として挙がった。
また「製造」では、環境に配慮した設計ガイドライン整備の必要性、再生繊維の定義や評価方法が定まっていないこと、「販売」では、再生繊維を使った衣類が新品のバージン素材の製品よりもコストが高くなりがちなことなどが話し合われた(図)。
「繊維to繊維」実現へ
同検討会で指摘された課題について、以前から解決に取り組む企業が複数ある。繊維専門商社でポリエステル事業も手掛ける帝人フロンティア(大阪府)は、そのうちの1社だ。
22年8月、衣料のリユース・リサイクル事業を展開するファイバーシーディーエム(大阪府)と共に、リサイクルシステム構築の取り組みを開始したと発表した。ポリエステルを用いる衣料の効率的な選別方法の開発・検証や、ポリエステルが使われている衣料から原料となるリサイクルチップの生産などに取り組み、25年までに量産プラント立ち上げを目指す。
23年4月には、ポリエステルとポリウレタン弾性繊維が使われている衣料から、後者だけを除去する技術を開発したと発表した。この技術によって、石油由来の原料と同等品質の再生ポリエステルが生産可能になるという。
帝人フロンティアで技術・生産本部長などを務める重村幸弘取締役執行役員は、「綿やウールなどポリエステル以外の繊維についても、オールジャパンで再生システムが構築できることを期待する。それはわれわれだけではできない」とポリエステル以外のリサイクル技術確立の必要性を強調する。
独自のケミカルリサイクル技術を活用して「繊維to繊維」に取り組むのは、リサイクル事業を手掛けるJEPLAN(神奈川県)。同技術で再生した100%繊維由来のポリエステル原料は、自社で展開するアパレル製品に用いる他、他社にも提供している。
衣類の資源循環プロジェクト「BRING」も展開中。アパレルメーカーをはじめさまざまな企業と連携して衣類を回収し、自社の北九州響灘工場やパートナー各社を通じてリサイクル・リユースする。「BRING」のディレクターを務める中村崇之課長は、「このような取り組みを通じて、より多くの消費者に循環型社会を体験し、参加いただきたい」とコメントした。
溶ける縫い糸を開発
衣類をリサイクルする場合、縫い糸を取り除いて表地や裏地、ファスナーなどさまざまな部材に分解する必要がある。…
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週刊エコノミスト
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