10月1日からビール類の酒税改正 なるか“ビール復権” 河野圭祐
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2026年にはビール・発泡酒・新ジャンルの税率が一本化される。低税率で市場を広げてきた発泡酒・新ジャンルは撤退・淘汰に向かいそうだ。
アルコール離れの逆風
厳しい残暑が続いた今年8月下旬、ビールメーカー大手4社は一斉にビール事業のマーケティング戦略説明会を開催した。ビール類(ビール、発泡酒、新ジャンルの総称)の酒税改正が10月1日から始まるのを受けての、新たな商戦突入を告げる動きだ。今回の改正は2020年10月に続く2回目で、3年前と同様にビールの酒税が下がり、新ジャンル(=第3のビール)は上がり、発泡酒は据え置きとなる(図1)。
今回は発泡酒と新ジャンルの酒税が同額になることで新ジャンルという括(くく)りは消滅する。さらに3年後の26年10月に3回目の酒税改正が行われ、ビールが再度減税となり、増税される発泡酒と酒税が一本化されることになる。ビール市場の縮小と反比例するように伸長してきた缶チューハイなどの「RTD(レディー・ツー・ドリンク)」は酒税据え置きだが、発泡酒同様、26年に酒税が上がる予定だ。ビール業界にとっては20年に続く転換点到来となる。
ビール市場がピークを付けたのが、いまから約30年前の1994年。その年にビールが増税され代わりに、酒税が安い発泡酒「ホップス」をサントリーが発売。その後、発泡酒が増税されて、サッポロビールが03年に新ジャンルの先駆けになった「ドラフトワン」を投入した。
サッポロホールディングスの尾賀真城社長は今年2月、「各メーカーが発泡酒や新ジャンル商品の開発競争に奔走して低価格スパイラルに陥り、本来のビールの価値そのものが低下したことは否めない」と筆者の取材で指摘した。その上で、「26年にビール類の酒税が一本化されることで、ようやくビール市場の展望が開けつつある」と強調する。
今秋以降、ビールへの本格回帰が起きるとすれば、発泡酒登場から約30年の時を経て、再び94年以前のビール市場の姿に収斂(しゅうれん)していくようにも映る。ただし、酒類を巡る時代背景は30年前とは大きく変化している。
WHO(世界保健機関)がアルコールへの規制を強めつつあるほか、若年層のビール離れが進み、グローバルで見ると「ソバーキュリアス」と呼ばれる、あえてお酒を飲まない、飲んでも低アルコールやノンアルコールの商品を好む人たちも増えているからだ。昨年こそ18年ぶりにビール類の年間販売数量前年割れが止まったが、これは前々年のコロナ禍での低調な数字と比較してのもの(図2)。コロナ禍前の19年比で上回っていかなければ、底打ちしたとはいえない。
一方で、原材料費や資材費などの高騰から各ビールメーカーは昨年10月にビール系商品の値上げを実施している。値上げで20年10月からのビールの減税分が相殺されてしまい、ビール市場の回復が失速しかねない懸念もあったが、昨秋以降もビールの販売は特に落ち込むことなく推移しているようだ。そんな中、2回目の酒税改正は、各社にとって勝ち残りに向けた戦略の優劣を試される機会になっている。
アサヒはアルコール度数低めで勝負
アサヒビールは昨年、ビール類の総市場シェアで19年以来の首位奪還を果たした(図3)。同社は冒頭で触れた各社のマーケティング戦略説明会で唯一、社長(松山一雄氏)も出席しており、熱量の多さがより感じられた。それも当然で、アサヒは発泡酒や新ジャンル商品に比べてビールの販売量が約7割と大きく、酒税改正で最も追い風を受けそうなメーカーだからだ。
10月11日発売となる新商品、「スーパードライ ドライクリスタル」は看板の「スーパードライ」の派生商品で、アルコール度数を3.5%(スーパードライは5%)に抑えた点が特徴だ。松山社長は、「10年後のど真ん中を目指す商品だ」と位置づけ、30年には今回の新商品で1000万ケース(1ケースは大瓶20本換算)の販売ボリュームを狙うという。
アルコール度数3.5%の同商品は昨年7月、豪州で発売しているほか、欧州では今年1月、脱アルコール製法によるノンアルコールの「スーパードライ」も…
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週刊エコノミスト
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