“送料無料”はタダか? アマゾン、楽天などと物流業界で論戦 木村祐作
有料記事
「送料無料」は本当に「タダ」なのか。表示の見直しを巡り、業界入り乱れての論戦が続いている。
背景に通販各社の大手プラットフォーマーに対する不満も
通販などで買い物をする時に気になるひとつが、商品の送料だ。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの実店舗と違い、通販は商品を自宅まで配送してもらう。当然、物を運ぶには費用がかかるが、アマゾンや楽天などのインターネット通販サイトをはじめ、個々の通販サイトでは、一定条件を満たす場合には「送料無料」と表示されるケースが多い。
この送料無料表示を物流業界は批判しており、物流業界の要望を受ける形で、消費者庁は今年6月から、表示方法の見直し作業に入った。だが、荷主の立場となる通販業界は強く反発している。なぜなら、表示方法を変更すると、売り上げに大きく影響しかねないからだ。
「働き方改革関連法」(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が、2024年4月からトラックドライバーに適用され、時間外労働の上限が年間960時間に制限される。物流業界では、現状の輸送力のままだと、制限がかかれば24年度には輸送力が14%不足し、今のように商品を配送できなくなると予測している。この問題に対応するため、政府は6月2日、「物流革新に向けた政策パッケージ」(表)を閣議決定。その中で、トラックドライバーの賃金引き上げや物流システムの効率化につながる施策を取りまとめたが、そこに「送料無料表示」の見直しも盛り込まれた。
物流業界の危惧
閣議決定を受け、消費者庁は6月23日に「『送料無料』表示の見直しに関する意見交換会」をスタートさせ、これまでに6回にわたり、物流業界や通販業界からヒアリングを行ってきた。
物流業界はなぜ送料無料表示を問題視するのか。全日本トラック協会は、商品が無料で配送されているという誤解が消費者間に広がり、物流業界の地位低下が懸念されると主張する。同協会は消費者庁の意見交換会で「送料は無料ではなく必ずかかることを消費者にわかってほしい。タダで運んでいるような仕事は選びたくないと思われることも危惧している」(同協会幹部)と訴えている。
同協会にはトラックドライバーや運送事業者から、「苦労して再配達までしているのに、かたや『送料無料』と言われると、やりきれない気持ちになる」「『送料無料』なんて表現を許しているから、運賃が上がらない」といった苦情が寄せられているという。
物流業界は、荷主のアマゾンや楽天といったデジタルプラットフォーマーや、これに出店する通販会社と比べて、運送事業者は交渉力が弱く、適正な運賃をもらえておらず、その要因のひとつが送料無料表示であり、この表示を見た消費者は商品配送にコストがかからないと誤解し、物流業界の社会的地位が低下するとしている。このため、「送料は当社で負担」という表示や「送料は〇〇円いただきます」といった表示への変更を求めている。
一方で、デジタルプラットフォーマー側は真っ向から反対している。楽天などで組織する新経済連盟は、消費者庁の意見交換会で「送料無料表示を変えても問題を解決できるイメージが持てない」と反論。アマゾンジャパンなどが加盟するセーファーインターネット協会も、「表示変更による効果が見込めない場合は、見直しを求めるべきでない」との見解を示した。
送料無料表示が運賃適正化の足かせとなり、物流業界の地位低下につながるという主張に対し、通販業界はその根拠を疑問視している。議論の入り口からかみ合っていない状態だ。特に全日本トラック協会の「消費者は商品がタダで配送されると誤解する」という指摘に対し、通販業界は「本当にそう考えている消費者はほとんどいないのでは」と反論している。消費者庁はこの点に関する消費者アンケートを実施していないため、各業界の想像による“空中戦”が続いている。
SNS上では、ラーメン屋の「ライス無料」にまで議論が飛び火し、「ライス無料のラーメン屋ならラーメンにライスの値段が入っている。送料無料なら商品の価格に送料が含まれている。消費者は無料イコール得してい…
残り2088文字(全文3788文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める