全線新規は全国初 LRT「宇都宮ライトレール」の可能性とは 梅原淳
有料記事
宇都宮に全線を新たに作ったLRT(次世代型路面電車)が誕生した。地元の期待を背負う鉄道にはどのような可能性があるのか。
画期的なゼロカーボン交通 地産地消の電力使用
宇都宮市とその東側に隣接する栃木県芳賀町に8月26日、新たな鉄道が開業した。宇都宮ライトレール(宇都宮市)が運営する「宇都宮芳賀ライトレール線」だ。いわゆる次世代型路面電車のライト・レール・トランジット(LRT)である。
ライトレールは「宇都宮駅東口」停留場を起点とし、終点の「芳賀・高根沢工業団地」停留場までの14.6キロメートルを結ぶ。道路上に線路が敷かれた区間は全体の約3分の2の約9.4キロメートル、残りの約5.1キロメートルは一般的な鉄道と同じく専用の敷地内に線路が敷かれている(区間の距離は四捨五入のため合計と一致しない)。全線複線で、停留場は計19カ所設けられた。
今回開業したライトレールは、宇都宮駅と宇都宮市東部や芳賀町の新興住宅地や工業団地との間に中規模な輸送量の公共交通機関を確保する目的で建設された。
沿線には宇都宮大学陽東キャンパスやショッピングモール「ベルモール」(最寄りの停留場は「宇都宮大学陽東キャンパス」)、栃木県立宇都宮清陵高校や作新学院大学(同「清陵高校前」)、サッカーJ2の栃木SCが本拠地とする栃木県グリーンスタジアム(同「グリーンスタジアム前」)、ホンダの研究・開発拠点(同「芳賀・高根沢工業団地」)など、鉄道の持つ大量輸送機能を生かせる学校や施設が多数ある。
開業直後の週末にグリーンスタジアムで栃木SCの試合が開催された日は臨時便も運行された。沿線にはこれまで路線バス以外の大量輸送手段がなく、幹線道路の渋滞も目立っていたため、ライトレールによってスピーディーで効率的な移動が実現した。
運賃は、乗車距離に応じて上がり、3キロメートルまでの初乗りは150円、全線を乗ると400円だ。支払いは車内で行い、現金のほか交通系ICカードが使用可能だ。
開業に向けて製造された車両HU300形(愛称・ライトライン)は3車体が1組となり、車両の床面がレール面近くまで下げられた超低床電車だ。定員は160人で座席は50人分設置された。今のところ、すべての車両が各停留場に停車し、宇都宮芳賀ライトレール線全線を乗り通すと48分ほどかかる。平均速度は時速20キロメートルだ。宇都宮ライトレールによると、今後は一部の停留場を通過する快速も設定する計画で、そうなると全線の所要時間は約37分に短縮される。
既存の路面電車は概して乗り心地が良くない。道路上に敷かれた線路のメンテナンスは、通常の線路と異なって、舗装を剥がす必要があり簡単ではないからだ。
ライトレールは開業直後ということもあって乗り心地がよく、筆者が乗車した9月上旬は、縦方向の揺れはほとんど感じられなかった。専用の敷地に敷かれた線路はもちろん、道路上に敷かれた線路も、車両の通過や自動車による線路への影響がまだないため、線路にゆがみがほとんど生じていないからだと考えられる。
今後、道路上に敷かれた線路の状態が心配されるが、技術の進歩で耐久性や制振機能を取り入れた構造の線路が導入されたため、問題は少ないであろう。
将来的にはスピードアップも計画されている。現状の最高時速40キロメートルを、道路上では50キロメートル、車両専用の線路では70キロメートルまで引き上げる。もちろん、スピードアップは車両性能の向上だけでなく、線路の状態の維持が不可欠だ。
富山に次いで2カ所目
国土交通省がバリアフリーなどの観点からも提唱するLRTとして新たに開業したのは、富山市の富山地方鉄道(旧富山ライトレール)富山港線の一部区間に次いで、宇都宮ライトレールが2カ所目だ。全線が新たに建設された例はライトレールが全国初のケースとなる。路面電車では道路の中央部分を走る例が一般的だが、富山市のLRTと同じく、ライトレールも一部の区間では線路が歩道側に寄せられ、乗り降りのしやすさと、交通事故防止が図られた。
すべてが新たに建設されただけにライトレールにだけ見られ…
残り2566文字(全文4266文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める