「シングル」であることの価値や戦略を確かなデータと論理で考察 荻上チキ
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漠然と思っていたことであっても、改めてデータやロジックで説明されると、世界の見方が刷新されたような気持ちになることがある。『「選択的シングル」の時代 30カ国以上のデータが示す「結婚神話」の真実と「新しい生き方」』(エルヤキム・キスレフ著、文響社、1958円)という本は、そんな感覚を与えてくれた一冊だ。
本書のテーマは、「シングル」だ。結婚をしていない状態にいる人は、どのような社会状況や精神状況に置かれがちなのかを、丹念に分析している。人は実際には、多くの時間をシングルとして過ごす。高齢社会である今は、ますますその傾向が強まっている。恋愛をする人であっても、「最初の恋人」を作るまでは、大抵は生まれてから相当の時間を要する。結婚する人であっても、今や離婚をして再びシングルになる確率も高まっている。歳(とし)を重ねれば、結婚相手に先立たれて、高齢シングルになる可能性が高まる。
一方で、社会には変わらず、独身差別が存在する。結婚していない人は、孤独で寂しく、不完全で哀れで、どこかに問題を抱えている人なのだと見なされる。
ところが。シングル状態であることは、実際にはネガティブなことばかりというわけではない。そればかりか、恋愛や結婚は、孤独や不安の解決策として、それほどよい処方箋ではないと著者はいう。
例えば、結婚による幸福度や満足感の上昇は限定的であるというデータがある一方、シングルの方が社交的に振る舞うことができ、より広範囲の社会的サークルからサポートを得られるという調査も紹介されている。また、結婚を経験した人の方が、後期高齢者となった場合の孤独感がより高まるというデータもある。
パートナーとの関係を重視することは、パートナー以外の人との時間を制限することにもなる。パートナーを失う、あるいはパートナーが見つからないという感覚は喪失感や剥脱感を味わうことにもつながる。長期的に見れ…
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週刊エコノミスト
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