国際・政治

ウクライナ産農産物の流入で東欧が反発 EUの支援に暗雲 小菅努

EUはウクライナ支援と域内の農業保護の両立に苦心している(小麦を収穫するポーランドの農家)Bloomberg
EUはウクライナ支援と域内の農業保護の両立に苦心している(小麦を収穫するポーランドの農家)Bloomberg

 9月19日の国連総会で、ウクライナのゼレンスキー大統領が、演説の中で「(欧州の一部の国が)自分の役割を演じているように見えるが、モスクワのための舞台を用意する手助けをしている」と発言したことを契機に、ウクライナとポーランドの間に亀裂が走っている。ポーランドのモラウィエツキ首相は同月20日、ゼレンスキー大統領の演説を受け、ウクライナへの武器供与の停止を警告した。

 ロシアの軍事侵攻で、ウクライナは黒海の港から農産物を輸出できなくなり、昨年7月にロシア、ウクライナ、トルコ、国連が、輸出再開に向けて「黒海穀物イニシアチブ」に合意したが、ウクライナはロシアの検査妨害により、十分な輸出ができていない。今年7月にはロシアが合意からの離脱を表明している。

農家の不満高まる

 黒海経由の農産物輸送船はロシアの攻撃対象になるため、欧州連合(EU)は、鉄道やトラックで陸路から欧州の港経由でウクライナ産農産物をアフリカなどに輸出する支援を行ってきた。だが、流通網や貯蔵能力の十分な整備が行われない状態で大量のウクライナ産農産物が欧州に流入した結果、東欧では農産物の市場価格が値下がりし、農家の不満が高まっていた。特に今年4月には、農業関係者のデモが頻発し、ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの東欧5カ国は、ウクライナ産農産物の禁輸措置に踏み切った。

 当初、EUの欧州委員会は、EU加盟国に個別の通商政策を決定する権限はないとしていたが、ウクライナ支援の結束を維持するため6月5日まで、その後は9月15日まで期間を延長して、ウクライナ産農産物の禁輸措置を認める方針を打ち出した。欧州委員会は予定通り、9月15日に禁輸措置の終了を宣言したが、ポーランド、スロバキア、ハンガリーは独自に禁輸措置を継続することを決定した。ウクライナはこの3カ国を、世界貿易機関(WTO)に提訴したが、それに対してポーランドは、ウクライナへの武器供給の停止を宣言。EUのウクライナ支援の足並みが乱れかねない状況になっている。

 ポーランドは10月15日に議会選挙を控えているが、与党の過半数獲得は難しい状況とみられている。与党は農村部やウクライナ支援に反発する人たちの支持を集める選挙対策を考慮せざるを得ない状況にある。そのため、ポーランドによるウクライナ支援の基本姿勢自体には変化はないとの見方もある。いずれにしても、ポーランドを含む中東欧諸国の農家の反発が高まっていることに変わりはなく、問題の構図が解決されているわけではない。EUのウクライナ支援の結束を保つためには、ウクライナ産農産物が東欧諸国に滞留することなく、スムーズにアフリカなどに向けて輸出できる、インフラを早急に整備することが求められよう。

(小菅努・マーケットエッジ代表取締役)


週刊エコノミスト2023年10月10・17日合併号掲載

ウクライナ危機 穀物で東欧が反発 EUの支援に暗雲=小菅努

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