彩り豊かな花で色彩を探求したゴッホが結実させた圧倒的な存在感 石川健次
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美術 ゴッホと静物画──伝統から革新へ
オランダに生まれ、「フランス絵画に切実な憧れ」(本展図録より、以下同じ)を抱いたフィンセント・ファン・ゴッホ(1853~90年)が、芸術の都パリへ移り住んだのは必然だっただろう。聖職者への道をあきらめ、27歳で画家を志してから6年後のことである。
2年間のパリ滞在中、それまでは数えるほどしかなかった花の静物画を数多く描いた。2年間で描かれた花の静物画は約45点に及ぶ。もっぱら花を描く理由に触れ、ゴッホは手紙に書いている。「モデルに払う金も不足しているありさまです。そうでなければ人物画に専念していました」。貧困ゆえに描きたくもない花を、と思うと物悲しい気分にもなる。
だが本展によれば、理由はまだある。「様々な色を自由に組み合わせることが可能な花は、『色彩のための習作』には格好の主題」だった。彩り豊かな花を描くなかで、「自分自身のスタイルを模索していった」のである。
事実、1年目は「おおむね色調が重厚で、絵の具も厚く塗った」作品が多かったが、2年目になると「色調は明るく、筆触も軽やかで変化にとんだもの」となった。やがて、模索は結実する。図版に挙げたのは、まさにその1点だ。
37歳で亡くなるまでの10年という短い画業のなかで、ゴッホは油彩画だけでも850点余りを描いた。主題的には400点近い風景画が最も多く、次に人物(肖像)画が250点余り、3番目は静物画で190点近い。これらの主題のなかで静物画に焦点をあて、その魅力に迫るのが本展だ。
食器や書…
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週刊エコノミスト
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