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経済・企業

蓼科高原に情報発信拠点「蓼科BASE」がオープン、活気取り戻す高原リゾート

蓼科BASEには、蓼科に集う人々の「サロン」になって欲しいとの願いも込めた(「帰ってきた蓼科」の矢﨑公二・代表取締役)
蓼科BASEには、蓼科に集う人々の「サロン」になって欲しいとの願いも込めた(「帰ってきた蓼科」の矢﨑公二・代表取締役)

 軽井沢と並ぶ長野県の代表的な高原リゾートである蓼科高原がコロナ禍を経て、活気を取り戻している。高原の象徴的存在である蓼科湖の周囲に、道の駅やキャンプ場、飲食店などが次々にオープン。今年の夏や紅葉の季節は、道の駅の駐車場が満杯になるほど、観光客が訪れるようになった。

観光まちづくり会社「帰ってきた蓼科」

 立役者となっているのが、2017年5月に設立された観光まちづくり会社「帰ってきた蓼科株式会社」だ。旅館、土産物店、飲食店、ロープウエー運営会社、出版社などの地元資本と地域の金融機関が出資し、新たな観光施設を展開する推進母体となっている。今年の4月には、蓼科湖の湖畔に情報発信拠点「蓼科BASE(ベース)」をオープン。レストラン、パン屋、バー、日帰り温泉、宿泊所も備えた施設で、今夏の多い日には、一日3000人が訪れる人気スポットとなった。

蓼科湖の湖畔
蓼科湖の湖畔

バブル崩壊で観光客が半減

 蓼科高原は八ヶ岳の森林と湖、豊富な温泉資源、東京から車で3時間のアクセスを武器に1960年代の高度経済成長期から80年代のバブル経済の時代にかけ、「首都圏の避暑地」として大きく発展。最盛時には年間の利用客数が300万人の長野県有数の観光地となった。しかし、バブル経済崩壊後は観光客が減少。1998年の長野五輪開催を機に、軽井沢に新幹線が通り、大型商業施設ができると、蓼科は顧客を奪われ、直近の利用客数は年間150万人にまで落ち込んでいた。

「活性化協議会」で議論を開始

 そうした状況に危機感を抱き、地元蓼科の観光協会、茅野市、財産区(江戸時代からの集落が発展し、地元の山林や水資源などを保有・管理する共同体)が集まり、2012年6月に「蓼科活性化協議会」を発足。活性化のための議論を開始した。ただ、観光協会自体は任意団体で、事業推進のための資金集めなどはできない。そのため、プランを実行するための受け皿組織として、「帰ってきた蓼科」が設立された。

映画監督の小津安二郎とゆかりがあるアイスクリーム店を復刻した
映画監督の小津安二郎とゆかりがあるアイスクリーム店を復刻した

「帰ってきたウルトラマン」から命名

同社の代表取締役に就任したのは、地元出身の元衆議院議員、矢﨑公二さんだ。矢﨑さんは、父の代まで老舗温泉旅館「蓼科観光ホテル」を経営し、祖父は地元の村長を務めた。そうした蓼科とのゆかりの深さから、社長就任を請われた。会社の名前は、矢﨑さん(1959年生まれ)の世代が親しんだ「帰ってきたウルトラマン」(1971~72年に放映)にちなんで付けた。「蓼科にかつての賑わいを取り戻そう、もう一度帰ってきてもらえるリピーターを増やそう」。さらに、「蓼科から出て行った若者にUターン、Iターンで地元に戻ってきてほしいという意味を込めた」(矢﨑さん)。

蓼科湖を観光の中心エリアに

 矢﨑さんは新会社の役割について、「蓼科の観光に足りないものを調査して、それを少しずつ実現していくこと」と説明する。17年5月の発足後、1年をかけて各種のリサーチを実施。過去の観光宿泊者人口のデータから始まり、別荘利用者のニーズ、地元観光事業者が直面している課題などについて調べ、再生のためのマスタープランを作成した。その核となった考えが、「蓼科湖を人と物と情報が集まる蓼科観光エリアの中心地とする」というものだった。

「レイクリゾート構想」として、蓼科湖、白樺湖、女神湖間の周遊性を高める
「レイクリゾート構想」として、蓼科湖、白樺湖、女神湖間の周遊性を高める

 蓼科の抱える課題の一つが、バブル経済の崩壊以降、資金や事業者の高齢化の問題により再投資がうまくいかず、かつて存在した宿泊施設や商業施設の多くが廃業してしまったことだ。そのため、蓼科は白馬、松本など県内の他の有力な観光地への単なる通過地点になっていた。また、「団体旅行から個人旅行へ」という昭和から平成、令和にかけた旅行ニーズの変化にも必ずしも対応できていなかった。

別荘地の住人のニーズを取り込む

 一方で、蓼科には他の観光地とは違う大きな強みがあった。それは、八ヶ岳西麓にある1万1000軒の別荘住人の存在だ。戦前から3世代、4世代に渡って住む層も多く、特に70代後半から80代の団塊前後の世代は、蓼科の強固なファンだ。これらの層は、毎年、必ず夏に避暑に訪れ、その子供や孫の世代も蓼科に強い愛着を持っている。

 また、近年のインバウンド(訪日旅行)の拡大は、海外の観光客にドイツやオーストリア、スイスの高原地帯とそん色のない蓼科の自然資源の質の高さを認識させている。夏に冷房が不要の気温とカラッとした気候もライバルの軽井沢に比べた大きなアドバンテージだ。「自然の豊かさやリゾート感では、軽井沢に勝っている」(矢﨑さん)。難易度の低いトレッキングコースや湖畔のキャンプ施設が多いことも、昨今のアウトドアレジャーブームでは大きな追い風だ。

第1弾としてロッジ、キャンプ場と地元ブランド牛の焼き肉バル

 こうした、蓼科の強みと弱みの分析を経て、「帰ってきた蓼科」は2018年から本格的に、再生計画の実行に乗り出した。第1弾となったのは、同年7月の蓼科湖畔にある老舗旅館・キャンプ場のリノベーションと焼き肉バルのオープンだ。

 古い温泉旅館をロッジ「ヒュッター ロッジ&キャビンズ」に改装、蓼科湖と蓼科山が一望できるカフェ・レストランや物販店を設置したほか、宿泊施設の内装も山小屋風に変えた。併設するキャンプ場には、2~6人が泊まれる大小16棟のキャビン(小屋)を用意した。30~40代の女性や家族連れ、一人客を対象に、トレッキングや湖でのカヌー、バーベキュー、森林ヨガ、屋外のサウナ小屋など、様々なアウトドア体験を用意した。(編集部注:現在、ロッジとキャンプ施設はそれぞれ「グランドリゾート蓼科」「キャンプフィールド蓼科」として24年のリオープンに向け休業・改装中)。

 焼き肉バルは、湖畔のカフェを改装し、「蓼科牛 ittou(いっとう)」として、地元の牧場で育ったブランド牛を一頭買いし、様々な部位の焼き肉を楽しめるようにした。こちらは、団塊ジュニアを中心とした3世代家族をターゲットとした。

2018年7月にオープンした焼き肉バル「蓼科牛 ittou」
2018年7月にオープンした焼き肉バル「蓼科牛 ittou」

「道の駅」を誘致

 活性化の第2弾は「道の駅」の誘致だ。湖畔北側にある大型駐車場の一帯を「道の駅」として国土交通省に申請。20年4月に大型公衆トイレと休憩展望施設が先行して完成、道の駅は同年7月に「道の駅ビーナスライン蓼科」としてオープンした。駐車場には普通車120台、大型車が7台駐車できる。

「道の駅ビーナスライン蓼科」ではペットグッズなどの販売も行われる
「道の駅ビーナスライン蓼科」ではペットグッズなどの販売も行われる
今年8月に「道の駅」にオープンしたアウトドア用品ショップ
今年8月に「道の駅」にオープンしたアウトドア用品ショップ

 「道の駅ビーナスライン蓼科」の特徴は、湖畔を含む周囲10数ヘクタールを道の駅として一体的に運用していることだ。一般的な道の駅が専用の物販店や飲食店を有しているのに対し、蓼科の場合は、帰ってきた蓼科が新設した施設や従来からある飲食店、土産物店を利用してもらうようにしている。道の駅には、蓼科に山荘があった映画監督の小津安二郎なども利用した往年のアイスクリーム店を「蓼科アイス」として再現した。

「蓼科BASE」にはレストランや温泉宿泊施設も

 湖畔の情報発信拠点「蓼科BASE」は今年4月にオープンした。長野県の食材を使った洋食レストラン、ベーカリー、野菜を材料のビーガンハンバーガー専門店、フレンチシェフが腕を振るうカフェ&バー、それにソフトクリーム店が入っている。1階には日帰り温泉、2階には宿泊施設がある。温泉は、蓼科で最も歴史の古い「滝の湯」の源泉を引き、源泉かけ流しとした。宿泊施設は、団塊ジュニアやインバウンドで訪れる欧米の旅行客を意識し、畳や障子を多用した「和モダン」な内装としている。

蓼科BASE内には、ビーガンバーガー店や地元の食材を使ったレストランが入る
蓼科BASE内には、ビーガンバーガー店や地元の食材を使ったレストランが入る

三つの湖が連携する「レイクリゾート構想」

 BASEには観光案内所のほか、会議なども開けるWi-Fi完備のパブリックスペースも備えている。蓼科湖の周辺には、白樺湖、女神湖と同じく標高の高い湖が点在する。矢﨑さんは、「レイクリゾート構想として、湖を懐に抱いている高原リゾートの良さを発信していこうと考えている」と話す。「湖は森と人が交わる窓口。それを、国内だけでなく、その良さを知っている欧州など、世界に発信していきたい」。そのため、観光案内所には、蓼科湖に加え、白樺湖と女神湖のパンフレット、周辺観光施設の割引券も置き、この三つのレイクリゾート間での顧客の周遊性を高めていく考えだ。

蓼科BASE2階の宿泊施設は、訪日旅行を意識し、和モダンのデザインとした
蓼科BASE2階の宿泊施設は、訪日旅行を意識し、和モダンのデザインとした
蓼科BASE内の温泉は、蓼科最古の「滝の湯」から湯を引いた源泉かけ流し
蓼科BASE内の温泉は、蓼科最古の「滝の湯」から湯を引いた源泉かけ流し

 蓼科湖の周囲には、今年7月、地元資本のアルピコリゾートが「蓼科高原キャンプ場」をオープン、さらに、8月に大阪資本のアウトドアショップや地ビール醸造所も開業し、にぎやかさを増している。来年3月には高級ホテル「ホテル ドゥ ラルパージュ」も開業する。こちらは、1泊10万円以上となる見通しで、海外の富裕層などがターゲットとなる。

交流サロンを復活させる

 蓼科には戦前から、伊藤佐千夫、柳原白蓮や東郷青児をはじめ、詩人、歌人や画家など多くの文化人が避暑に訪れた。戦後は映画監督の小津安二郎と脚本家の野田高梧(のだ・こうご)が第2の故郷として別荘を構え、小津作品の多くの脚本を練った。矢﨑さんは、「蓼科はかつて、文化人が集う交流サロンとしての役割を果たしていた。こうしたサロンを復活させることも、蓼科BASEの大きな役割の一つ」と語っている。

(稲留正英・編集部)

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