教養・歴史現代資本主義の展開

マルクス主義への懐疑と批判④ソ連対アメリカ 小宮隆太郎

 米欧日の主要資本主義国では、完全雇用の維持だけを目指すのではなく、成長率を引き上げるために投資水準を高め、技術進歩を促進するための経済政策がとられた。米ソの比較で、それが鮮明になる。

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こみや・りゅうたろう 1928年京都市生まれ。52年東京大学経済学部卒業。55年東京大学経済学部助教授。64年米スタンフォード大学客員教授。69年東京大学経済学部教授。88年通商産業省通商産業研究所所長。89年青山学院大学教授。東京大学名誉教授、青山学院大学名誉教授。戦後の日本の近代経済学をけん引する一方で、後進指導に尽力し、政財官界に多くの人材を輩出した。2022年10月死去。「現代資本主義の展開――マルクス主義への懐疑と批判」は本誌1970年11月10日号に寄せた論考である。

 ソ連とアメリカとの比較について、1960年ごろには、ソ連では「アメリカに追いつき追い越せ」ということが盛んにいわれたが、最近、そういうことはいわれなくなった。60年ごろを境目にして、アメリカのほうの成長率が高まり、ソ連のほうは低くなるという「すれ違い」現象がおこった。ソ連はそれ以前には、6%ぐらいといわれた成長率が落ちて、「ソ連経済の不振」ということがたびたび報道されるようになった。アメリカは50年代後半には成長率が3%を割っていたが、60年代前半には5%近くに伸びたというような屈折がみられた。

西側資本主義の優位性

 しかし、より根本的には、そういう短期的ないし中期的現象以上に、長期的な経済発展を考えた場合に、高度に発展をとげた工業国の最近の実績では、ソ連・東ドイツ・チェコスロバキア等よりも、アメリカ・西ヨーロッパ諸国・日本など資本主義諸国のほうが、経済的効率が優れており、成長率が高い。第二次世界大戦後、資本主義諸国では、競争的な状況のもとで、個々の企業の創意が発揮され、画期的な技術革新が行われ、また新しい技術が急速に普及し、生産性の速やかな上昇がみられた。各国の経済政策はたんに完全雇用を維持するだけでなく、成長率を引き上げるために投資水準を高め、技術進歩を促進することを目的として行われてきた。そのため多少の景気後退はあったにせよ、長期にわたる不況や恐慌は回避された。

 これには国際的な協力も大いに寄与している。50年代後半から、IMF(国際通貨基金)、GATT(関税貿易一般協定)、OECD(経済協力開発機構)を中心として、貿易・為替・直接投資の自由化の努力が次第に結実しEEC・EFTAの発足、GATTのもとでの関税障壁の引き下げなどによって市場圏が拡大され、貿易・投資をはじめ国際交流が盛んになった。これらの点で、閉鎖的・官僚的なソ連経済をはじめ、共産圏の諸国とのあいだに著しい差がみられるのである。

 現在、各国の1人あたりの国民所得の水準は、アメリカを100とすれば、…

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