教養・歴史書評

狭く痩せた土地で民主政はどう育まれたか 本村凌二

 ギリシャ語を話しオリンポスの神々を信仰する人々の土地は痩せて狭いから、小麦の生産高は低い。そのなかで、いかにして民主政が生まれ育まれていったのか。それが塩野七生『ギリシア人の物語 1 民主政のはじまり』(新潮文庫、1210円)の底を奏でる旋律をなす。

 勢威あるスパルタ人はなによりも戦士であり、征服者として君臨した。幼少期からの集団生活のせいでスパルタ人は平等と服従の念をたたきこまれる。それだけ独自に物事を考えることがないから、軍事力抜群でも文化らしきものは生まれにくかった。

 アテネでは、資産に応じて四つの階級に分けられ、国政参加の度合いが定められた。少年は親元で生活し、読み書き算術から詩文の朗読、楽器の演奏などをたしなみ、体育訓練場通いが奨励される。強制なき調和とアテネ市民が自負するところである。それだけ自立心が強いから、現実の政治の舞台では混乱が絶えなかった。賢明な僭主政(せんしゅせい)のなかで、アテネの国力は充実したが、その体制がほころび、前508年、民主政の礎となる改革が始まる。

 前5世紀になると、東方のペルシャ帝国の脅威がギリシャに迫る。アテネは総司令官ミリティアデスの下で軍勢にまさるペルシャ軍をマラトンの野の包囲壊滅作戦で打破。専制帝国の威信がくじかれはじめる。10年後、ペルシャの大軍が再びギリシャ本土に侵入。アテネの将来を海上に見たテミストクレスは軍艦を増強し、市内か…

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