オーバーツーリズムが京都のまちを壊す 新井直樹
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“京都らしさ”が失われるだけでなく、人口流出や地域経済の停滞などの弊害が深刻化している。オーバーツーリズムの問題をリポートする。
観光消費が増えても市内総生産は減少
訪日外国人(インバウンド)数がコロナ前の水準へと回復する中、インバウンドの集中する地域においてキャパシティーを超えた観光客の増加が住民生活に受け入れ難い悪影響を与えるオーバーツーリズム(観光公害)の問題が再燃している。
政府も10月に対策案を示したが、実際の対応は地域任せにならざるをえない。すでに京都などの地域で対応策に取り組んでいるが、インバウンド誘致は住民に負の影響を及ぼすものの地域への経済効果が高いとされ、自治体や観光協会も弥縫(びほう)策を取らざるをえない。
しかし、筆者は京都市の諸統計が公表されるに従い、インバウンドの地域への経済効果について疑念を抱くようになった。また、京都におけるオーバーツーリズムは混雑、マナーの問題だけではなく、古都の魅力を毀損(きそん)するのみならず、まちを破壊し、人口を流出させる深刻な問題へと発展している。
本稿では、まず京都におけるオーバーツーリズムがもたらした地域への負の影響と対策の限界について指摘する。その上で、京都市の統計を基にインバウンドの地域への経済効果について検証し、問題の本質や対応策について指摘するとともに、インバウンド誘致によって経済振興を図る全国の地域への示唆について言及したい。
市の対策の限界
2000年に4000万人余りだった京都市の観光客数はインバウンドが急増した10年代後半には5000万人を超え、新型コロナウイルス禍の急減期を経て、22年には4361万人、今年はさらに回復する見込みである。同市の宿泊客数は00年に942万人、このうち外国人宿泊客数は40万人で、4%に過ぎなかった。しかし10年代後半から急増し、18年には過去最高の450万人、18年で約11倍、全体の約30%となり、宿泊客数も過去最高の1582万人となった。コロナ禍の急減期を経て、23年8月の外国人宿泊客数はコロナ前の19年同月比で80%の水準まで回復している。
こうした中、京都市では17年ごろからオーバーツーリズムの問題が報道され始め、ゴミのポイ捨て、私有地への無断侵入、民泊の騒音などの観光客のマナーの問題や、観光名所周辺やバスの混雑など、過剰な観光客の量の問題によって住民生活が圧迫されていることが問題となった。
これらの対策としてマナーの問題は、祇園(ぎおん)などで注意を促す看板が多数設置され地域が自衛しているが、問題が根本的に改善したわけではない。量の問題の対策として京都市は、観光客が集中する時期・時間・場所の分散化、観光名所のリアルタイム映像配信など混雑の見える化のほか、24年度から観光客の利用がほとんどの1日乗り放題バス乗車券を廃止し、混雑緩和を図るなどの対策に取り組むが、効果は限定的だろう。
子育て世代が流出
こうした中、筆者が最も重大な問題と考えるのは、インバウンド需要の急増に応じた再開発によって“京都らしさ”が失われるのみならず、地価高騰により人口が市外に流出する「ジェントリフィケーション」という現象である。同様の現象はオーバーツーリズムに悩むイタリアのベネチアやスペインのバルセロナにおいても発生している。京都ではインバウンド急増に応じた宿泊施設や外国人を含めた富裕層向けのセカウンドハウス、投機的な高級マンションが、市街地に次々と建設され、従来の住民や商店が立ち退きを迫られている。そして、伝統的な京町屋、路地とともに、まち、コミュニティーが破壊され、地域が均質化し、京都らしさが失われるのとともに、不動産価格高騰により人口流出が加速化している。
京都市はインバウンドの急増に合わせて、10年代後半に複数の地域で土地利用規制を緩和し、宿泊施設の建設を促したり、小学校跡地にホテルを誘致したりするなど宿泊施設の拡充にまい進した。その結果、市内のホテル、旅館、簡易宿所を合わせた宿泊施設数は、12年3月の907施設から23年3月には3444施設と約4倍に急増した。
一方で、京都市の公示地価の平均価格は、12年から22年の10年で1.6倍超、ホテル、マンションが建つ商業地の公示地価の平均価格は2倍超に上昇し、人口規模の近い他都市と比べ上昇率は際立っている。こうした中、不動産価格高騰によって市内での住宅の購入、賃貸を断念し、市外に転出する子育て世代が増加している。
図の通り、17~22年の京都市の年代別の人口社会動態を見ると、市内に数多い大学への進学に伴い15~24歳の若年者は転入超過だが、25~39歳と0~4歳の転出超過が目立つ。結婚・子育て期に家族で不動産価格の安い市外へ転出するケースが顕著で、全体においても転出超過となっている。
これにより…
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週刊エコノミスト
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