経済・企業エコノミストリポート

マイカー減少局面へ 2035年までに総台数1割減 宮城除く東北5県と高知は2割減 黒岩祥太

年末年始の連休が終わって東京へ向かう上り線は渋滞するが、自動車保有台数は減少に向かっている=神奈川県海老名市の東名高速道路上空から2023年1月3日撮影
年末年始の連休が終わって東京へ向かう上り線は渋滞するが、自動車保有台数は減少に向かっている=神奈川県海老名市の東名高速道路上空から2023年1月3日撮影

 日本の乗用車保有台数は減少局面にある。要因は地方での急速な人口減少や首都圏への人口集中などだ。女性の運転免許保有率上昇も止まる。

販売店から郊外型SCまで関連ビジネス見直し必至

 過去50年以上にわたり、おおむね一貫して増加してきた日本の乗用車(マイカー、以下同)保有台数が、ここにきて減少局面に入りつつある。背景には人口減少や少子高齢化のほか、マイカー保有率の低い都市部への人口集中、女性の免許保有率の上昇鈍化などの要因が挙げられる。これらの要因は経済や新技術の普及などと異なり、予測が容易である上、確実に進行している状況であるため、マイカー保有台数についてもかなりの確度で予測が可能だ。

 そして、マイカー保有台数が減少するのであれば、各地域の自動車販売店やメンテナンスなどの付帯サービスだけでなく、ショッピングセンターや飲食店に至るまで、関連産業は各地域の市場がどの程度縮小していくかを見極めながらビジネスを展開していくことが必要だ。

 現代文化研究所では、日本統計センターと協力して、2019年から市区町村別のマイカー保有台数の予測を実施してきた。

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 最近の予測結果を都道府県別にまとめたのが表1だ。総数では05年から22年の17年間で、5616万台から6181万台と約10%増加した。これに対し35年までの13年間では、5557万台と約10%減少する。05年から22年まで毎年平均0.6%増加していたのに対し、35年にかけては毎年平均で0.8%の減少となる。

 期間ごとの予測では、22年から25年にかけてが6181万台から5984万台と年率約1.1%、25年から30年は5984万台から5760万台の同約0.8%、30年から35年は5760万台から5557万台と同約0.7%の減少で、“団塊の世代”が後期高齢者(75歳以上)に達する22年から25年にかけての減少率がより大きい。

 地域別で見るとどうなのか。22年から35年の間で最も減少率が大きかったのは、東北地方の秋田県、青森県、福島県、山形県、岩手県と四国地方の高知県でそれぞれ19%以上、続いて四国地方の徳島県、愛媛県、九州地方の長崎県、鹿児島県、近畿地方の和歌山県で17%以上の減少となっており、地方での減少が著しい。一方で、東京都は8%以上の増加となっている。減少幅が少ない都道府県は、神奈川県と愛知県でおおむね2%以下の減少、沖縄県で約4%、大阪府で6%以下の減少となっている。

女性の免許保有者数も減少

 マイカーの保有台数は、保有母体となる人口と、1人当たりのマイカー保有台数(1人が複数台保有の場合もあり保有確率ではない)の乗算と考えることができる。

 保有母体となる人口に関しては、09年以降、日本の総人口が減少局面に入っていることは周知の事実であり、実際に当時、自動車の総保有台数が減り始めるのではないかとの議論が自動車関連団体などで見られた。ではなぜ、10年代を通じて人口が減少する局面で、マイカーの保有台数が伸び続けたのか。

 これは中高年齢層を中心に、運転免許保有率の上昇に後押しされる形で、女性のマイカー保有率が上昇し、女性に好まれる軽乗用車の保有台数が、普通・小型乗用車の減少以上に増加したためと推測される。例えば、「交通安全白書」で10年と22年の運転免許保有率を比較すると、女性の若年層では若干低下しているものの、40代後半以上の女性で上昇しており、特に50代後半以上では、その上昇が著しい。その結果、男性も含めた免許保有者全体という「保有母体」は増加してきた。

 しかし、50年以上にわたって上昇を続けてきた免許保有者数も、人口減少と高齢化などの影響で、18年をピークに減少に転じている(表2)。

 次に1人当たりのマイカー保有台数に影響を及ぼす要因としては、まず人口に占める後期高齢者の比率の上昇が挙げられる。特にこの先数年は、1947年から3年間の“第1次ベビーブーム”生まれの“団塊世代”が75歳以上の後期高齢者となり、免許返納者も増加すると推測される。

 また、世帯構成に占める単身世帯人口の比率増加も、1人当たりのマイカー保有台数の減少につながっている。厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、単身世帯の割合は、10年の25.5%から22年に32.9%に上昇しており、この傾向は今後も続くと考えられる。

都市集中で減少に拍車

 加えて、都市部への人口集中もマイカー保有台数減少の大きな要因となる。筆者は各市区町村の人口密度と1人当たりのマイカー保有台数の散布図を作成してみた(図)。人口密度が高くなるほど、保有台数は減少する傾向が明確にみられる。これは人口密度の高い地域ほど、鉄道などの公共交通機関が発達しているためと、駐車スペースなどで乗用車の保有コストが高くなるためと推測される。他方で、人口密度が低い地…

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