税制改正での加熱式たばこへの増税 たばこハーム・リダクションへの影響大きく慎重な議論を-[Economist View]
我が国の2024年度税制改正の大綱に、法人税、所得税、たばこ税の3税が防衛費増額に伴う財源として明記された。24年度以降のたばこ増税が検討され、加熱式たばこの扱いが焦点だ。フィリップ モリス ジャパンは11月中旬、東京都内でメディアセミナーを開き、増税にあたっては関係者の声を幅広く聞いたうえで慎重な議論が必要だと訴えた。同社の小林献一副社長に、加熱式たばこの増税で起こりうるリスクを聞いた。
たばこハーム・リダクションとは
世界保健機関(WHO)によると、世界では10億人以上の喫煙者がいる。健康のために最もよい選択は禁煙だが、できない人もいる。その人たちと周囲の人の健康被害をより少なくするため、喫煙の満足感を得られながらも、紙巻きたばこよりも害の少ない製品を選択すること、これがたばこハーム・リダクションという考えだ。
「がんや慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、喫煙によって引き起こされる深刻な病気は、燃焼による紙巻きたばこの煙に含まれる化学物質の混合物が原因であると、米国食品医薬品局(FDA)などが見解を示している。一方、燃焼を伴わない加熱式たばこでは、有害性成分の90〜95%を低減することが科学的に証明されており、健康への影響を考えると、紙巻きたばこよりも加熱式たばこを選ぶことがよいといえる。しかしこれは、一企業だけでできることではなく、官民が協力して政策的に誘導していくことが必要だ」と、フィリップ モリス ジャパンの小林献一副社長は話す。
実際、諸外国の紙巻きたばこと加熱式たばこの税率差をみてみると、加熱式たばこが販売されているEU22カ国での平均税率差は63%、OECD加盟国28カ国でも平均して55%の税率差で、害の少ない加熱式たばこの税率を低くしている。英国科学技術院では、たばこ関連製品への課税について健康リスクの観点から、電子式たばこを最も低く、紙巻きたばこを最も高く、加熱式たばこを中間にするよう提言している。
税率差をなくすことで、紙巻きたばこへ逆行するリスク
日本における紙巻きたばこと加熱式たばこの税率差はわずか10%しかないが、この差を埋めて同じ税率にしようという動きがある。この増税で、加熱式たばこの1箱あたりの税金が最大100円上がる可能性があり、値上がりすれば、再び紙巻きたばこに戻ってしまう人がいるかもしれない。これでは世界の流れに逆行してしまう。
小林氏は「我が社はたばこ会社だが、煙のない社会の実現を目指している。具体的には、可能な限り早く、紙巻きたばこを煙の出ない製品に置き換えていきたい。一方で、たばこは日本に限らず多くの国で税源になっている。増税に反対するわけでないが、加熱式たばこを狙い撃つような増税は、加熱式たばこのユーザーに課税が偏ってしまい公平性を欠くのではないか。また、加熱式たばこ専用の喫煙スペースを整備した飲食店や宿泊施設、たばこ販売店にも影響が心配されるため、増税は幅広い関係者に意見を聞いたうえで、慎重な議論がなされることを願う」と語った。