資源・エネルギー学者が斬る・視点争点

再エネの変動を受け止める電力市場 杉本康太

 天気により発電量が変わる再エネの活用へ、その変動を受け止める調整力市場が大きな役割を果たしている。

広域需給調整はコスト削減に効果

 太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーは、天気によって発電量が変動するため、不安定だと考えられている。従来の電源にない変動性再エネのこの特性を「間欠性」といい、電力システムに統合する際の課題だと考えられてきた。時々刻々と変動する需要と供給を一致させ続けるためには、火力発電や水力発電の出力を短時間で調整する必要があるからだ。

 この能力を日本では「調整力」と呼び、電力量とは別の価値として一般送配電事業者(送電系統運用者)が公募で調達している。調整力には、一般送配電事業者が発動を指令してから反応するまでの時間や発動を継続する時間などに応じて、1次調整力、2次調整力から3次調整力までの商品区分がある。変動性再エネが増加すると、調整力のニーズが増し、需給調整に要する費用の増加が懸念されている。

 需給調整費用は、自らは電源を持たない一般送配電事業者が、調整力を所有する発電・小売事業者からあらかじめ一定の容量を予約することに対する支払いの費用と、その調整力を実際に発動した場合に調整力の提供者に対して支払う電力量の費用の和からなる。シミュレーションを用いた欧米の研究は、他の条件を一定とすれば、再エネの導入量が増えると需給調整費用は増加することを示している。

インバランス・ネッティング

 しかし実際には、日本より先に再エネが増加した欧州では、需給調整費用は逆に減少している。ドイツでは2007年から9年間に再エネの設備容量は30ギガワットから90ギガワットと3倍に増加したにもかかわらず、この期間に需給調整費用は減少している。ドイツの2次調整力(Frequency Restoration Reserve)の発動電力量は、11年には73億キロワット時だったが、17年には25億キロワット時にまで減少した。Christopher Koch氏とLion Hirth氏によるドイツの調整力に関する19年の研究によれば、この減少分のうち4割が「インバランス・ネッティング」によるものだと推計されている。

 インバランス・ネッティングとは、送電系統運用者同士がエリア間のインバランスを合算して、不足インバランスと余剰インバランスを相殺することで、調整力の発動を回避することである。ドイツでは10年ごろにドイツ国内の四つの送電系統運用者の間で開始し、その後は欧州10カ国以上の送電系統運用者が協力して国際的に実施している。

 実は日本でもインバランス・ネッティングは広域需給調整の一環として既に実施され、大きな成果を上げている。日本では3次調整力のインバランス・ネッティングが21年3月17日から、沖縄を除く9エリアで行われている。相殺した後に残ったインバランスにだけ調整力を発動すれば需要と供給を一致させることができるため、調整力の発動量が減り、需給調整費用の低下につながる。送配電網協議会によると、21年4月~22年1月の10カ月間で、180億円の調整力の発動費用の削減効果があったとされている。この費用削減額には、発動する調整力を広域で安い順に発動する「広域メリットオーダー」という調整力の運用の改善も含まれている。

 これらの取り組みは、日本の電力システムにとって大きな需給調…

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週刊エコノミスト

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