ゲーム理論で考えるふるさと納税 小林航
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「ふるさと納税」では各自治体が返礼品について最適な選択をしているにもかかわらず、「悪い競争」になる傾向がある。
「返礼品競争」で住民の効用低下
今年も残りわずかとなったが、12月は「ふるさと納税」の駆け込みの時期でもある。筆者も先日、いとこの同級生が作ったというPR動画がSNS(ネット交流サービス)で送られてきたので、早速、我が古里の新潟県上越市にふるさと納税を行った。
ふるさと納税はその名の通り、古里に納税することができる制度を作れないかというところから始まった。住民税の一部を、自分の好きな自治体、応援したいと思えるような自治体に納付できるようにすることにより、自治体間で政策競争が活発化するのではないかとの期待もあった。
しかし、実際に活発化したのは政策競争よりも返礼品競争だった。筆者が上越市にふるさと納税を行ったのも、魅力的な返礼品があったからという側面を否定することはできない。それでは、返礼品競争とはどのような競争なのだろうか。ここでは簡単なゲーム理論のモデルを用いて、返礼品競争の帰結について考えてみよう。
ここにAとBという二つの地域があるとする。両地域にはそれぞれ9人ずつの住民が住んでおり、計18人の住民はいずれも「500」という所得を稼ぐ。各住民は自分が居住する地域の自治体に所得の10%(50)を住民税として納付する義務を負うが、そのうちの20%(10)はもう一つの自治体に寄付することもできる。そして、寄付を受けた自治体は、寄付者に対して寄付額の30%(3)の返礼品を提供することができるものとする。
各自治体は住民税の税収に寄付金収入を加え、返礼品を提供する場合にはその経費を差し引いた金額を財源として、地方公共財を供給する。地方公共財はその地域に居住するすべての住民に便益(利益)をもたらすものとする。
ゲームは二つのステージで構成される。ステージ1では、各地域が寄付者に対して返礼品を提供するかどうかを選択する。その際、各地域は住民の効用(満足度)を最大化するように行動する。住民の効用は、地方公共財から得る便益と、それ以外に自分で購入する商品などの私的財から得る便益の合計で表されるものとする。
四つのケースで比較
その後、ステージ2では、各住民がもう一つの地域に対して寄付を行うかどうかを選択する。住民は私的財から得る便益を最大化するように行動するものとすると、その利得は「所得-住民税-寄付+返礼品」で計算できる。さらに、寄付を行った場合と行わない場合とで自分の利得が等しくなる場合には、寄付は行わないものとする。このとき、住民の行動は、もう一つの地域が返礼品を提供してくれるならば寄付を行うが、返礼品がなければ寄付は行わないというシンプルなものとなる。
このようなステージ2における住民の反応を踏まえ、ステージ1における各地域(自治体)の選択を考えよう。表では、二つの地域がそれぞれに、返礼品の提供について「あり」と「なし」という二つの選択肢のどちらかを選んだ場合に起こりうる四つのケースが表示されている。
ケース1は両地域とも返礼品を提供しない場合である。このとき、両地域の住民は寄付を行わず、その利得はいずれも450となる。また、各地域には9人の住民から50ずつの住民税が納付されるため、それぞれ450ずつの地方公共財を供給することとなる。各地域の住民は…
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週刊エコノミスト
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