岸田氏を待つイバラの道 総裁選不出馬も 与良正男
支持率低迷にあえぐ岸田文雄政権。岸田氏が自民党総裁選に出ないとなれば、解散の前提もがらりと変わる。
岸田文雄首相は本当に秋の自民党総裁選に出馬するのか──。2024年の政局の焦点は、ここに移ってくるはずだ。
菅義偉前首相と同じように、総裁選に立候補せず、首相を退陣する可能性があるという意味である。その場合、岸田氏が衆院解散・総選挙に打って出る道も閉ざされることになるだろう。これまでの「いつ解散するか」から、「そもそも岸田氏は再選を目指すのか」へ、局面は大きく変わり始めている。
それほど岸田首相は窮地に追い込まれている。
毎日新聞が11月18、19日に実施した全国世論調査では、岸田内閣の支持率は前回の10月調査(25%)から、さらに下落して21%で、内閣発足以来最低となった。危険水域に達した理由は、もはや説明するまでもない。
「適材適所」と自賛して起用した政務三役の相次ぐ辞任。所得税減税や低所得世帯への給付も国民の評価は厳しい。「岸田氏が何をしたいのか分からない」という声は、足元の自民党内にも広がっている。しかも、今後の挽回策はなかなか見つからない。
岸田氏は衆院の解散風を自ら吹かすことで求心力を保ってきた。だが、23年5月、広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)直後をはじめ、解散のチャンスはあったにもかかわらず、結局踏み切れなかった。
ではなぜ、岸田氏は衆院選にこだわってきたのか。来秋に予定される自民党総裁選で圧勝、もしくは無投票で再選されるためには、一度衆院選を断行して実績を作っておく必要があるからだ。だから「いつ解散か」が絶えず与野党の関心事になってきたのである。
菅氏と二階氏がカギ
ところが、総裁選に出ないとなれば、話の前提はまったく変わる。
自民党のベテラン議員は「岸田氏には、どうしても成し遂げたい政策目標がない。3年、首相を務めれば十分だと考えているかもしれない」と話す。
私は、岸田氏の権力への執着心が薄れているとは思っていない。ただし、現実には年明け以降、「ポスト岸田」に向けた動きが表面化する公算は大きい。カギを握るのは、現在、自民党内で非主流派に甘んじている菅前首相と二階俊博元幹事長の2人である。
特に菅氏は公明党だけでなく、自民党が警戒を強めている日本維新の会と太いパイプがあるのが強みだ。そんな菅氏が、このところ報道各社の世論調査で人気が復活している石破茂元幹事長を推し、これに二階氏も同調すればどうなるか。
衆院選が近づくほど、人気のある首相の下で選挙を戦いたいと考えるのが自民党議員の心理だ。岸田降ろしの流れが一気に加速するに違いない。無論、石破氏以外でも「新しい顔」が見つかれば、同様の動きとなる。
実は野党第1党の立憲民主党は、不人気の岸田首相の下で衆院選を戦いたいと考えている。仮に岸田氏が交代すれば、今度は立憲内で「今の泉健太代表で戦えるのか」という声が強まるに違いない。
残念ながら、与野党ともに腰を落ち着けた政策論議は二の次で、「新しい顔」選びを優先する政治が続くだろう。
(与良正男〈よら・まさお〉毎日新聞客員編集委員)
週刊エコノミスト2023年12月19日号掲載
日本経済総予測 政局大展望 来秋の総裁選に不出馬も 岸田氏を待つイバラの道=与良正男