関西万博に漂う暗雲 膨れる建設費 遅れる工期 防災対策も今後の焦点に 木下功
大阪・関西万博の大阪市民1人当たりの負担額は1万9000円。計画の甘さが次々に露呈している。
今年11月30日で開幕まで500日となった2025年大阪・関西万博。指摘されていた工期遅れの問題に加え、10月20日には、会場建設費が500億円膨らみ、最大2350億円となる大幅増額の見通しが公表された。万博の運営主体である日本国際博覧会協会(万博協会)は原因について、想定を上回る「物価上昇による建設資材費と労務費の高騰」と説明するが、高騰は2年前から続いていた。
万博協会が関与する会場建設費の増額は2回目。20年末には、当初想定していた1250億円が1.5倍の1850億円になると公表。1回目の増額の原因は会場のシンボルとなる大屋根の設計変更や暑さ対策を挙げ、費用は国と大阪府・市、経済界が3分の1ずつ負担することになった。2回目の増額も負担割合は同じで、府・市、経済界、国の負担額はそれぞれ783億円ずつとなる。
協会は「増額は今回が最後となるよう取り組む」とし、協会の副会長を務める吉村洋文大阪府知事、横山英幸大阪市長は「執行管理に甘さがあった」と陳謝している。今回の会場建設費の増額は当初から比べると1.9倍に膨張。万博の中止や延期を求める声も出る中、11月14日の市議会で、市民1人当たりの負担額が約1万9000円になることを市が明らかにした。市民は国民でも、府民でもあるため、各負担分を上乗せした結果だ。
一方の工期の問題も見通しは立っていない。工期遅れが指摘されているのは、海外から参加する国・地域が独自に設計・建設する「タイプA」というパビリオン。協会は建設を代行する簡易型の「タイプX」への移行を促しているが、現在も独自色を出したい国は「タイプA」を目指しており、中でも時間のかかる大型パビリオンを目指す国が「タイプA」に固執しているという。
アクセスルートも不足
工事環境も整っていない。今回の増額の内訳に、施工環境改善費(38億円)という項目がある。現在、工事が進む工区でも工事用の道の整備ができていないために工事車両が錯綜(さくそう)し、動線の整備などが必要として盛り込まれた。しかし、ゼネコン関係者は「下水道の整備も継続しており、すぐに改善できるわけではない」とする。
会場建設でネックとなっているアクセスルート不足は避難計画でも大きな課題となる。開催期間は25年4月13日~10月13日の184日間。入場者数は2820万人を想定しており、ピーク時には1日20万人を超えると見込まれる。万博会場は大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲(ゆめしま)で、アクセスルートは2本しかなく、万全な避難計画の策定が必須になる。夢洲は恒常的に地盤沈下しており、地震の際には液状化の警戒も必要になる。
吉村洋文知事は11月16日の記者会見で避難計画について「まだ僕のところに報告は上がっていないが継続して実務協議を進めている。最終的にまとまれば報告する」とし、「現在進行形」を強調した。海外から要人を招き、修学旅行生をはじめ子どもたちを招待する計画もある。防災対策を万全にすることが開催の絶対条件ではないか。
(木下功〈きのした・いさお〉ジャーナリスト)
週刊エコノミスト2023年12月19日号掲載
日本経済総予測 関西万博 建設費膨張、防災対策…… あまりに多い開催への難題=木下功