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「複合不況」の病理をさぐる 金融自由化の帰結としての調整過程 ① 宮崎義一(1992年5月12日)

ベストセラーになった『複合不況』を著した宮崎義一氏がエコノミストで執筆した「『複合不況』の病理をさぐる」を3回に分けて掲載します。バブル崩壊は単純な景気後退ではなく、金融自由化、経済の国際化の広がりなどさまざまな要因が複雑に絡み合って引き起こされていると説きます。

「複合不況」の病理をさぐる 金融自由化の帰結としての調整過程 ①

宮崎義一 京都大学名誉教授

 当面する景気後退を経済の古典的な調整過程とする見方が一般的である。しかし筆者は、その背景に国際化した金融の調整があり、新しい形の「複合不況」であるとする。

 4月1日(1992年)ついに公定歩合は0.75%引き下げられ年3.75%となった。政府・自民党・経済界などが待望していた第4次引き下げである。

 金丸信自民党副総裁はしびれをきらして、「首相はオールマイティーだ。首相のいうことを聞かないなら日銀総裁は、首を切ってでも下げるべきだ」(2月27日竹下派総会)と発言し、さらに「国民はすでに下がるものと思っており、0.5%下げても景気浮揚にはならない」(3月20日足利市で右翼の銃撃を受けた日の会合)と圧力を加えた。

 渡辺美智雄副総理・外相も「超法規的といわれるくらいの腰の抜けるようなことをやらなければだめだ」(3月17日記者会見)とハッパをかけ、さらに経団連・平岩外四会長も、「ここまで企業マインドが冷えてくると、もう一段の引き下げを期待したい気持ちを皆が持っている」(3月2日記者会見)と強い期待を表明していた。

 しかし大方の期待を裏切って、4月1日の東京株式市場は、対前日比764円16銭安の1万8581円79銭と、5年ぶりに1万8000円台に落ち込んだ。

 こうした公定歩合の引き下げと、公共投資の前倒しだけで景気は上向きに転ずるだろうか。これらは、当面する景気後退を在来のリセッションと同じ型のものとみて、お定まりの処方箋をとり急ぎ実施しようとしているだけではないか。その前にまず日本経済の当面するマイナス成長について正しい診断を行うことが必要なのではないか。正しい診断にもとづいてこそはじめて正しい処方箋を示すことができるのではないか。本論文は、政府も自民党も経済界などによっても当面するマイナス成長について、正しい診断が下されていないことを指摘して、注意を喚起することを目的としている。

複合リセッション

 アメリカ経済が、各種金融機関…

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