クリスパー・セラピューティクス 「ゲノム編集」を用いた治療法開発 清水憲人
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CRISPR Therapeutics 英当局の薬事承認で先行き好転/100
クリスパー・セラピューティクスはフランス人の微生物学などの研究者、エマニュエル・シャルパンティエ氏らが2013年に創業したスイスのバイオ企業だ。同氏は20年、生物の遺伝子を効率よく改変できる技術「ゲノム(全遺伝情報)編集」の画期的な手法「クリスパー・キャス9(ナイン)」を開発した業績で、米国人の研究者とともにノーベル化学賞を受賞した。
ゲノム編集とは、人工酵素を使って遺伝子を改変する技術。受賞した2人は12年、遺伝子の特定の部位に狙いを定めて効率よく改変できるクリスパー・キャス9を発明した。
同社はシャルパンティエ氏からクリスパー・キャス9に関する知的財産権を取得し、それを用いて異常ヘモグロビン症▽がん免疫学▽再生医療▽生体内遺伝子治療──の4分野に関する研究をしている。研究途上にあり、医薬品や治療法として実用化できていなかったことから、同社は創業以来、製品販売による収入を計上していない。22年12月期決算資料には「近い将来、製品販売収入を計上できる見通しは立っていない」と記載した。
もっとも、製品販売以外の収入はある。22年12月期売上高119万ドル(約1億7610万円)のうち、36%は15年に業務提携したバイオ医薬品企業の米バーテックス・ファーマシューティカルズから受け取った研究開発収入、残る64%は寄付収入だった。
そして23年、製品収入をもたらす見通しを高める進展があった。英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は11月16日、クリスパー・セラピューティクスとバーテックスが申請していたクリスパー・キャス9を用いた治療法を薬事承認したと発表した。対象となる患者は「鎌状赤血球症」と「ベータサラセミア」という正常な赤血球がつくれなくなる遺伝性疾患だ。MHRAの発表によれば、患者の骨髄から幹細胞を取り出し、研究所でゲノム編集をして患者に戻す治療法という。各国の報道機関は「クリスパー・キャス9を用いた治療法を当局が承認したのは世界初」と伝えた。
米当局も承認へ
この治療法は患者の生活を大きく改善させる可能性がある。ベータサラセミアの患者は定期的な輸血治療を受ける人が多いが、頻繁に輸血治療を受けると内臓の機能に悪影響を及ぼすことがあるという。両社が開発した治療法を使って造血機能を回復できれば、輸血治療を受ける必要がなくなる。
米食品医薬品局(FDA)も近く承認する見通しという報道がある。両社は6月、クリスパー・キャス9を用いた治療法を薬事承認するようFDAに申請した。11月1日付の米紙『ニューヨ…
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週刊エコノミスト
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