西洋絵画の大前提を覆すキュビスムの広範な歴史を一堂に 石川健次
有料記事
美術 パリ ポンピドゥーセンター
キュビスム展─美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ
20世紀初頭、ベル・エポックの繁栄に沸くパリが描かれている。図版に挙げた《パリ市》だ。3人の女性が画面中央に、画面右に見えるのは近代化の象徴でもあったエッフェル塔だろうか。
縦267センチ、横406センチという大画面とも相まって、近代都市パリの躍動とダイナミズムを目の当たりにするかのようだ。色彩豊かな無数の切子面に細分化、断片化されて見える画面は、まるでそれ自身がプリズムのようにキラキラと輝いて見える。
この作品が描かれる数年前、パブロ・ピカソ(1881~1973年)とジョルジュ・ブラック(1882~1963年)の2人が、対象を一つの視点から目に見えるままに描くルネサンス以来の西洋絵画の大前提を根底から覆した。
画家の目は自由に動き回り、複数の視点から見た対象を断片に解体し、見た通りではなく自分の思うように画面に再構成する。キュビスムである。絵画はもはや現実に似せた空間ではなく、画家が思いのままにつくる独自の、自由な空間となった。
ピカソとブラックは「1914年まで同じことを繰り返すことなく同時進行で実験を続けていった」(本展図録)が、同年勃発した第一次世界大戦にブラックが兵士として参戦したのを機に中断する。
だが抽象芸術へ至る道を開くなど後の芸術に決定的な影響を及ぼしたキュビスムは、ロベール・ドローネー(1885~1941年)ら「主にサロンで集団展示を行い『運動』としてのキュビ…
残り883文字(全文1533文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める