株式市場の集合的無意識を図太い笑いと渋い芸で描く 芝山幹郎
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映画 ダム・マネー ウォール街を狙え!
ポール・ダノの芝居に脂が乗ってきた。もともと巧(うま)い人だったが、新作「ダム・マネー ウォール街を狙え!」(2023年)の彼は、巧さだけではなく、グルーヴも感じさせる。まさしく水を得た魚だ。
ダノが演じたのは、マサチューセッツ州ブロックトンに住むキース・ギルという零細個人投資家だ。時は、コロナ禍が猖獗(しょうけつ)を極めていた2021年。
キースは、〈ゲームストップ〉という1株3ドル85セントのボロ株に眼をつける。オンラインゲームが全盛の時代に、あえて実店舗での現物販売に固執する旧弊な会社で、ウォール街を支配する大手ヘッジファンド〈メルヴィン・キャピタル〉に売り叩かれていた。
メルヴィンを率いるゲイブ・プロトキン(セス・ローゲン)は積極的に空売りを仕掛ける。値ごろ感に惹(ひ)かれて食いつく零細投資家の資金を「ダム・マネー(愚かな金)」と呼び、根こそぎ巻き上げようとするのだ。
キースは、その株を5万ドル分、こつこつと買い集めていた。買ったあとは、ローリング・キティ(吠える子猫)と名乗って自らが配信するネット掲示板でフォロワーに買いを呼びかけ、自身もさらに買い上がる。株価はジリ高傾向を続けるが、果たしてこのまま推移するのか。
全体の構図は、これでおわかりだろう。ウォール街の裕福な機関投資家と全米に散らばる零細個人投資家の対決。もちろん、財力には圧倒的な差があるが、株式市場には「集合的無意識」とも呼ぶべき眼に見えないパワーが、ときおり発生する。
ペンシルヴェニア州の看護師。ミシガン州の店員。テキサス州の大学生。なけなしの小銭をはたいて株式を購…
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週刊エコノミスト
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