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キーワードは「生成AI」  2024年のスマホトレンドを読み解く 石野純也

消費者はどのようなスマホを望んでいるのか……(Bloomberg)
消費者はどのようなスマホを望んでいるのか……(Bloomberg)

 成熟期に入ったといわれるスマートフォンだが、2023年は生成AIの活用で新しいサービスの可能性が見えた。24年はこの動きがさらに加速しそうだ。

会話機能や画像編集で差別化狙う

 スマートフォンの進化は、成熟期を迎えたともいわれ、ここ数年はマンネリ化している。

 各社は、カメラ機能を大幅に強化し、写真や動画の出来栄えをアップさせているが、それ以外の新機軸はなかなか打ち出せていない。ただ、カメラの画像処理にはAI(人工知能)を活用し、小型のセンサーでも、レンズ交換型のデジタルカメラに負けない性能を出せるようになった。

 例えばズーム機能も、デジカメに比べると倍率は低いが、足りない部分をAIで補正することで高画質を実現している。こうした処理を行うため、アップルやグーグルは自社でチップセット(各機能を統合した半導体)を設計。モデルチェンジごとにAIの処理能力を高めている。

 しかし、その応用事例は撮影にとどまっていた。カメラはスマホ選びで重視される機能であることは確かだが、今や中位機でも、ある程度きれいな写真を撮ることができる。差別化の要素にはなりづらくなっていた。

グーグル・ピクセルが急伸

 2023年のスマホ市場を振り返ると、生成AIと急接近した一年だった。24年には、その成果が多く出てくる可能性がある。

 生成AIには、人と会話をしたり、絵を作り出したりできる能力がある。利用者の質問を文脈まで含めて読み取り、回答する「チャットGPT」はその代表例だ。すでに発売されているスマホにも、iPhone(アイフォーン)の「Siri」や、アンドロイドの「グーグルアシスタント」のように短文のやりとりができる機能はあるが、人間が行うような会話を続けることはできなかった。

 だがグーグルは23年、画像処理で生成AIを活用した画期的なサービスを提供した。23年10月に発売した「Pixel(ピクセル)8」と「ピクセル8プロ」に搭載した「編集マジック」だ。それまでのピクセルに搭載されていた「消しゴムマジック」は、写真内に写り込んだ人物などをAIで消すことができたが、編集マジックは、消えた後の背景も生成AIで書き足している。

 どのような写真を編集するかにもよるが、例えば、中央に大きく写った人を消して、背景のみにするといったことができる。この仕組みの応用で、写真に写った人を移動させることや、複数枚の集合写真を分析し、個々の顔で良いものを合成して1枚に仕上げる「ベストテイク」という編集も可能になった。また、動画の音声から一部の音だけを消す「音声消しゴムマジック」という操作も可能に。これらはみな生成AIを使った機能だ。

 今、日本のスマホ市場は、AI機能を前面に打ち出したグーグルのピクセルが、シェアを急速に伸ばしている。調査会社MM総研によると、23年度上期のスマホ出荷台数のシェアは、グーグルが2位に急上昇し、アップルの背中を追う存在になった。

 大手通信事業者が割引をつけて安価に販売したり、大量のCMで消費者に認知されたりした側面もあり、必ずしもAIだけが評価されたわけではないが、ピクセルの差別化にAIが貢献しているのは事実だ。24年は、その傾向がさらに強くなると見ていいだろう。

 ただ、生成AIをスマホで自由に使いこなすにはまだ壁がある。

 ピクセル8シリーズに採用された一連の機能は、いずれもクラウド上で情報処理をしている。サーバーの処理能力を使い、スマホ単独では難しかった機能を実現したわけだ。端末がネットワークにつながっている必要があり、処理にはやや時間もかかる。

クアルコムの新チップセット

 スマホ自体の処理能力を高め、ネットワークにつながっていなくても処理を完結できるようにするチップセットを開発したのが米クアルコムだ。同社は、10月にハワイで「Snapdragon(スナップドラゴン) 8 Gen 3」という最新モデルを発表した。これを搭載すれば、スマホ単体の処理だけで生成AIを使うことができる。さらには、Meta(メタ)社やチャットGPTを開発するオープンAIなどのAIに対応。メタが開発した大規模言語モデルの「Llama(ラマ)2」や、オープンAIの音声認識エンジン「Whisper(ウィスパー)」などを実装しやすい設計になっている。スナップドラゴン8 Gen 3を搭載したスマホなら、あたかも人と話しているかのように、音声で会話して使うことができる。

 筆者は、このチップセットを組み込んだ試作機に、「マウイ島から東京に帰る方法を教えて」と聞いたところ、空港から飛行機で帰る方法を提示された。ただ、マウイ島から東京への直行便はないため、その旨をAIに伝えると、間違っていた情報を訂正し、「ホノルル経由で東京までのフライトがある」と教えてくれた。そのほかにも、特定のテーマを与えて詩を詠ませ…

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