原油1バレル=70~90ドルで推移 穀物相場は在庫増で下落傾向 小菅努
利上げによる景気減速やEV普及にもかかわらず、2024年の石油需要は伸びる見込みで、1バレル=70ドル割れから値を崩す恐れは低い。食料はコーヒー、ココアなどは高騰したが、穀物はウクライナ産への対応も進み、異常気象のリスクはあるものの、在庫増で相場に下げ圧力が働きそうだ。
2024年のWTI原油先物相場は、23年と同様に1バレル=70~90ドル水準をコアレンジとした取引を想定している。23年9月の高値95.03ドルを大きく上抜くリスクは限定される一方、70ドル割れから大きく値を崩す可能性は低い。
原油価格は「脱炭素」が不安定要因
24年の世界石油需要は過去最高を更新する見通しだが、国際エネルギー機関(IEA)が前年比で日量93万バレル増(23年は240万バレル増)、石油輸出国機構(OPEC)が225万バレル増(同244万バレル増)を予想するなど、需要環境には不確実性が大きい。23年の世界的な金融引き締めによる景気減速、そして電気自動車(EV)の普及などが需要の伸びを抑制するものの、アジア地区の需要は底堅く推移する見通しにある。ただし、脱炭素の動きがエネルギー需要環境にどのような変化をもたらすかについては不確実性が大きく、原油価格の不安定化を促す可能性がある。
一方、非OPECの石油供給はブラジル、カナダ、ガイアナ、米国などで伸びる見通し。OPECは23年の168万バレル増には届かないが、24年も133万バレル増と大幅な伸びが続くと予想している。原油相場が大きく上昇した場合でも、これらの国々の増産ペースの加速が上値を圧迫しそうだ。
ただし、23年に続いて24年もOPECプラスの厳格な需給管理が続く見通しで、相場を下支えする「OPECプット」が機能すれば、70ドル割れからの値崩れのリスクも限定される。国際通貨基金(IMF)によると、24年のサウジアラビア財政を均衡させるために必要な原油価格は79.7ドルと推計される。需給バランスは年間を通じて極端なゆがみを生じない見通しだ。
下落傾向続く穀物価格
24年の穀物価格は、23年に続く下落傾向を想定している。米農務省(USDA)が23年10月に公表した長期見通しでは、24/25年度のドル建て価格は前年比で小麦が6.8%安、トウモロコシが9.1%安、大豆が12.4%安と予想されている。
24年は需給逼迫(ひっぱく)状態が続く大豆の作付面積が4.1%増加することで、3年ぶりの在庫積み増しが可能とみられている。一方、潤沢な在庫を抱えたトウモロコシの作付面積は3.2%減少する見通し。ただし、期間の初めの段階で16/17年度以来の高水準の在庫を抱えているため、トウモロコシに関しては2年連続の在庫積み増しが予想されている。期末在庫見通しは、小麦が7.82億ブッシェル(前年度6.70億ブッシェル)、トウモロコシが26.16億ブッシェル(同21.11億ブッシェル)、大豆が2.86億ブッシェル(同2.20億ブッシェル)と、いずれも積み増し圧力が想定される。平年並みの気象環境なら、食料の上流部門である穀物相場は23年に続いて24年も値下がり圧力が想定される。
植物油は各国のバイオ燃料政策次第だが、パーム油や大豆油は増産傾向が続く見通しで、価格は横ばいから小幅安になる見通し。ウクライナ産の供給減少への対応は進んでおり、ウクライナ戦争の影響は限定されそうだ。
エルニーニョでコーヒー、ココアは暴騰
ただ、23年(11月末時点)はコーヒー10.4%高、ココア73.6%高、砂糖29.9%高、オレンジジュース94.3%高など、赤道付近で生産される食料価格は歴史的な高騰となったものが目立つ。異常気象エルニーニョ現象の影響が赤道付近に集中したためだ。エルニーニョ現象は春の作付けシーズンまで続く見通しで、異常気象による急騰リスクは農産物市場全体が抱え続ける。
24年も世界のどこかで異常気象が発生することを前提条件にせざるを得ない以上、特に春から秋にかけての穀物生産シーズンの天候条件によっては、穀物供給が突然不足するリスクも常に抱える。その際、生産国が国内供給を優先して輸出を規制すれば価格急騰リスクが高まる。23年はインドが砂糖、インドネシアがパーム油の輸出を規制したことが、相場環境の不安定化を促した。
原油と穀物に共通するテーマとしては、ドル相場の動向にも注目したい。米国の利上げ終了でドルが主要通貨に対して下落する展開になれば、ドル建ての原油や穀物価格の下値を支える要因になりそうだ。
(小菅努〈こすげ・つとむ〉マーケットエッジ代表取締役)
週刊エコノミスト2023年12月26日・2024年1月2日合併号掲載
2024世界経済総予測 コモディティー 原油は1バレル=70~90ドルで推移 穀物は在庫増 食料高騰一服か=小菅努