“南”の視点で語る中国史が「一つの中国」に再考迫る 加藤徹
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従来の中国史は「北」にかたよっていた。太古の黄河文明も、春秋戦国時代の「中原(ちゅうげん)」も、唐の都・長安も、13世紀以来全国的な首都となった北京も、みな北方だ。が、中国の南半分への視点を欠くと、正しい中国像は理解できない。
岡本隆司『物語 江南の歴史』(中公新書、1100円)は副題で「もうひとつの中国史」とうたうとおり、南の視点から中国史を説き明かす。文体は平明で図版も豊富、初心者にも読みやすい。
「江南」は長江(揚子江(ようすこう))流域以南の意。狭義では長江下流域だけを指す。広義では中・上流域も含む。本書の「江南」は広義で、上流の四川省、中流の「湖北・湖南」、下流の「江浙四省」など、地域ごとに、古代から近現代までの歴史と人物を紹介する。周辺部にも目配りがなされている。北の「中原」や、海域の倭寇(わこう)、革命思想の震源地だった広東の動向も解説されている。
長江上流の四川盆地は、豊かな物産に恵まれた「奥座敷」だった。三国志の蜀(しょく)の諸葛孔明も、日中戦争で日本軍に攻められた蒋介石も、この奥座敷にたてこもった。近代の四川の製塩やアヘン生産など、あまり知られていない史実も興味深い。
下流域の狭義の江南は2500年前、「呉越同舟」の故事成語の時代は後進地域だった。4世紀の西晋の滅亡後、中原の漢民族系王朝が江南に亡命政権を立てると、江南は伝統文化の中心地となった。5世紀の「倭(わ…
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週刊エコノミスト
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