法務・税務

コロナ禍が明けて国税調査が効率アップ 編集部

 3年に及んだ新型コロナウイルス禍が明け、税務調査がエンジン全開だ。人どうしの接触が控えられた2020年初からの新型コロナ禍では、国税調査官が調査対象を直接訪問する実地調査が事実上ストップしたが、ある国税関係者は「もう税務調査は完全復活ですよ。現場の調査官もコロナ禍が明けるのを今か今かと待っていましたからね」と鼻息が荒い。

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 その傾向は、コロナ禍の収束が見え始めた国税庁の2022事務年度(22年7月〜23年6月)の税務調査結果に表れており、法人税、所得税、相続税の実地調査件数が20事務年度を底にV字回復傾向をたどっている。それだけではない。注目したいのは税務調査の精度や能力の向上で、法人税、相続税の追徴税額は実地調査件数がコロナ禍前に届かないにもかかわらず高水準を記録するほか、所得税に至ってはコロナ禍前の19事務年度を上回っている(図1〜3)。つまり、税務調査1件当たりで指摘できる所得や財産の申告漏れが、コロナ前に比べても増えているのだ。

AIも活用して分析

 中でも、国税庁が重点的な調査対象としているのが、「消費税」「国際取引」そして「富裕層」だ。消費税を巡っては、外国人旅行者の立場を利用した転売目的の不正な免税購入が後を絶たず、本人確認を怠るなど不適切な販売を繰り返したとして、22年12月に米アップルの日本法人アップルジャパンが約140億円の消費税を追徴課税されたことが明らかになったほか、23年に入っても三越伊勢丹など百貨店大手が相次いで申告漏れを指摘された。

 複雑化する国際取引や富裕層の所得・資産運用を対象とした税務調査の典型は、大阪国税局が昨年4月、神戸市の男性に対して20年までの5年間で、総額52億円もの申告漏れを指摘したことが判明したケースだろう。台湾の上場企業株式を巡る相続やタックスヘイブン(租税回避地)で管理された資産からの所得も捕捉し、過少申告加算税を含めた所得税や贈与税の追徴税額は18億円にものぼるという。

 なぜ、税務調査のレベルが上がっているのか。コロナ禍の時期に日ごろから収集しているさまざまな納税者のデータを分析し、調査対象を絞り込んでいたとみられ、土屋会計事務所(東京)の土屋裕昭税理士は「細かなところもよく調べようと調査に来るようになった」と驚く。税務署の組織では調査官の評価はどれほどの「増差税額」(調査で追徴した税額)を指摘できたかで決まる。調査1件当たりの追徴税額が増えれば、調査官の士気も上がるのは想像に難くない。

 国税庁は今、AI(人工知能)も活用したデータ分析を、申告漏れの可能性の高い納税者の判定に生かす取り組みも始めている。その勢いは当面、衰えることはなさそうだ。

(編集部)


週刊エコノミスト2024年1月23・30日合併号掲載

税務調査 コロナ禍が明けエンジン全開 高効率にレベル向上した国税=編集部

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