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法務・税務 税務調査 完全復活!

多い「名義預金」の相続税申告漏れ 生前贈与の持ち戻しも注意 高山弥生

相続税の申告では現預金の申告漏れが最も多い……Bloomberg
相続税の申告では現預金の申告漏れが最も多い……Bloomberg

 相続時精算課税制度が始まって20年がたち、適用したのを忘れて生前贈与分の申告を漏らすケースも増えている。

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 相続税で最も申告漏れの多い財産は現金や預貯金だ。税務調査で申告漏れをよく指摘されるのが、「名義預金」と呼ばれる被相続人本人以外の名義で管理していた被相続人の預貯金であり、最近では相続時精算課税制度を適用したことを忘れた贈与財産も増えている。また、生前贈与や生命保険契約の権利なども含めれば、落とし穴はいくつもある。気を付けたいポイントをまとめた。

 国税庁が昨年12月に発表した2022事務年度(22年7月~23年6月)の相続税の税務調査結果によると、相続財産別の申告漏れ金額で最も多いのが「現金・預貯金等」で、全体の31.5%を占めている。過去の傾向を見ても常に3割台と最も申告漏れの多い相続財産であり、現金の申告漏れの原因としては主に「相続開始直前に引き出した現金の財産計上の失念」と「タンス預金」がある。

 相続は被相続人(亡くなった人)の死亡とともに始まり、相続直前に被相続人の生活費や入院費用、葬式費用などに充てるために被相続人の口座からまとまった金額を引き出すことはよくあるが、相続開始までに使わずに残っている額は相続財産として計上する必要がある。なお、葬式費用は一定の範囲内であれば相続財産から控除することが認められている。

 また、タンス預金は言い古された言葉ではあるが、かなりの家庭である程度の現金を手元に置いている。特に、地方の本家などでは盆暮れ正月に親戚を迎えるためにそれなりの現金を手元におく習慣があるため、被相続人の自室や仏壇などでそれなりの額の現金が見つかることがままある。また、銀行の貸金庫の中に現金が眠っていることもあるので注意が必要だ。

 ネット銀行の利用が普及してきたことも預貯金の申告漏れの一因になっている。通帳が存在しないため、被相続人が利用していたかどうか相続人が把握しにくいのである。リアル店舗のある銀行であれば、現存する通帳をもとに銀行など金融機関に口座がないか照会をかけて確認できる。しかし、被相続人が転勤などを繰り返していたりした場合、過去の居住地で口座開設していないか、古い通帳などで確認が必要となる。

「相続時精算」適用忘れ

 預貯金の申告漏れの原因で特に多いのが「名義預金」である。名義預金とは、親が自分のお金を子ども名義の預金口座で管理するような、本人の名義ではない預金のことで、税務上このような預金は本人のものとして扱われる。毎年のように生前贈与をすることで相続財産を減らす暦年贈与は、相続税対策として一般的な方法だが、贈与の仕方を誤り、名義預金として相続財産に計上しなければならなくなるケースが後を絶たない。

 贈与はあげる側ともらう側の「あげます」「もらいます」という合意があり、もらう側が贈与を受けたお金を自由に使える状態になって初めて贈与が成立した状態といえる。子どもや孫の名義の通帳を作成したことを子どもや孫に伝えず贈与者本人が所持して、毎年その通帳に入金することで相続税対策のために贈与をしているつもりの人がいるが、この方法ではそもそも贈与は成立していない。

 相続税対策として生前贈与を行う場合、贈与するお金の入金先は、受贈者(贈与を受ける人)が自由にお金を使うことのできる普段使いの口座が最適である。普段使いの口座であれば、受贈者は贈与を受けたことを振り込みによって認識でき、口座内のお金を受贈者は自由に使うことができるため、贈与が成立しているといえる。税務調査の際に根拠として示せるよう、贈与契約書も作成しておけば完璧だ。

 近年、相続税の申告漏れの原因として非常に多いのが、「相続時精算課税制度」を適用した贈与財産の計上漏れである。受贈者が2500万円まで贈与税を納めずに贈与を受けることができ、贈与者が亡くなった時に生前贈与した財産を含めて相続税を計算する制度だが、03年の創設当初にこの制度を適用して贈与を受けた場合は20年も経過しているため、贈与を受けたことを忘れて申告漏れになってしまうのである。

 相続時精算課税制度のような資産税に関する資料は、何十年前のものであっても税務署の中にしっかりと資料が残っており、申告漏れの指摘につながりやすい。あまりにも申告漏れが多いため、東京国税局は昨年5月から、相続税の申告期限前に相続人に対して相続時精算課税制度の適用者であることを知らせる「お知らせ」文書を送付する試みを開始した。

生命保険契約の権利も

 しかし、これは東京国税局のみの取り組みであり、税務署が相続税申告が必要な可能性が高い人に通知する「相続税の申告等についてのご案内」の対象になっていない場合や、相続時精算課税制度を適用した相続人が東京国税局の管轄内外どちらにもいる場合、お知らせは送付されない。つまり、お知らせが届かないからといっても、相続時精算課税制度を適用していないとは判断できない。

 自分自身が相続時精算課税制度を適用した上で、財産を贈与されたことがあるかどうか定かではない場合、税務署に対して「保有個人情報開示請求書」により相続時精算課税制度を選択しているかどうかの確認を請求できる。過去に贈与を受けていたのであれば、同様に「申告書等閲覧申請書」によって過去の申告内容を確認することもできる。

 相続開始前の贈与も申告を忘れやすい財産といえる。贈与税の基礎控除である年間110万円以内であっても、相続開始前3年以内の暦年贈与は相続財産に持ち戻して申告する必要があるが、この規定をそもそも知らないという人も多い。この規定は、亡くなる直前の駆け込み贈与により相続税負担を回避するのを防ぐためのもので、23年度税制改正で今年1月以降の贈与分は段階的に7年へと延長されることになった。

 年間110万円の非課税枠内で暦年贈与を続けていた場合、相続開始前3年分の申告漏れなら330万円で済むが、7年以内へと延長される31年1月1日以降の相続開始なら670万円(延長された4年分の贈与からは100万円を控除可能、7年×110万円-100万円)と影響が大きくなるため、計上漏れには気を付けたい。

 生命保険契約に関する権利も計上漏れを起こしやすい財産の一つである。死亡保険金であれば被相続人が死亡した時に保険金が入金されるため、申告を失念する心配はない。一方、配偶者や子どもなどを被保険者として、被相続人が保険料を負担していた場合などの生命保険契約に関する権利は、被相続人の死亡が保険金の支払い事由とはならず、被相続人の死亡に伴う入金はないため申告漏れになりやすい。

 そもそも、こうした生命保険契約に関する権利は、被相続人の死亡とともに権利そのものが相続財産として申告の対象になる。このような生命保険契約に関する権利の申告漏れを防ぐには、被相続人の預金から保険会社へ支払われている額と、保険約款とを突き合わせ、被相続人が保険料を負担している契約をすべて洗い出すことが肝要である。

(高山弥生〈たかやま・やよい〉ベンチャーサポート相続税理士法人 税理士)


週刊エコノミスト2024年1月23日・30日合併号掲載

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