スイスでの初演から84年 一兵卒から見た集団のゆがみを緊迫感ある展開で描く 濱田元子
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舞台 オフィスコットーネ「兵卒タナカ」
今年は日本の新劇の原点ともいえる「築地小劇場」が創設されて100年の節目である。自前の劇場を持つ劇団としての築地小劇場は、約5年の活動の間、同時代の海外翻訳戯曲を積極的に上演し、世界に開かれた窓となった。
こけら落としに選んだのは、ドイツの表現主義の劇作家、ラインハルト・ゲーリング(1887~1936年)の「海戦」。ほかにも仏のロマン・ロラン(1866~1944年)、米国のユージン・オニール(1888~1953年)などそうそうたる顔ぶれが並ぶ。
今回上演される「兵卒タナカ」の作者、ゲオルク・カイザー(1878~1945年)もその中の一人だ。築地で上演された「朝から夜中まで」などをはじめ、社会や人間を風刺する作品を発表し、ナチス台頭後には上演や執筆を禁じられ、1938年にスイスに亡命した。
40年にチューリヒで初演された「兵卒タナカ」は、日本を舞台に一兵隊の視線を通して、当時の軍国主義を痛烈に批判する作品だ。一昨年に急逝したオフィスコットーネ主宰の綿貫凛が最後に企画した。
演出の五戸(ごのへ)真理枝(文学座)は読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞した実力派。「綿貫さんと戦争にまつわるものをやりましょうとなった時、以前読んだ『兵卒タナカ』というタイトルが頭をよぎった。二人で同時に読み直しました」と語る。
舞台は北国の貧農出身である兵卒タナカが、戦友ワダと休暇で実家に戻るところから始まる。大飢饉(ききん)の真っただ中にもかかわらずタナカの家では酒や魚でもてなす。だが、ワダと引き合わせようとした妹ヨシコの姿はない。一方、タナカは天皇から衣服をもらい、…
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週刊エコノミスト
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