改めて“美の巨人”光悦の粗探し それでも宗達とのコラボはぴか一だ 石川健次
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美術 特別展「本阿弥光悦の大宇宙」
群れを成して舞い飛ぶ鶴と、糸のように細く、あるいはその何倍もあろうかと思うほど太い筆線で、三十六歌仙による三十六の秀歌が揮毫(きごう)されている。図版の作品だ。鶴を描いたのは琳派の創始者で知られる俵屋宗達(生没年不詳)、書は本展の主役、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)(1558~1637年)だ。
長さ13メートルに及ぶ長大な作品のほんの一部にもかかわらず、その流麗で絶妙なハーモニーは容易にうかがい知れるだろう。古くから長寿の象徴として尊ばれる鶴が元気いっぱい羽ばたき、躍動するさまに、元気をもらった気がする。書も絵も祝祭的な趣にあふれ、慶事のために制作されたと考えられると学生時代に教えられた記憶がある。納得だ。
刀剣の鑑定や研磨などを家業とする京都の上層町衆である本阿弥家に生まれた光悦は、書の達人として知られるほか、漆工芸の代表的な技法の蒔絵(まきえ)や陶芸など美術工芸に幅広く関わり、数多くの革新的で傑出した作品を生んだ。その全体像をたどるのは簡単ではないと本展が言う光悦の「大宇宙(マクロコスモス)の如く深淵(しんえん)」(本展図録)な芸術世界に本展は迫る。
金色に輝く大きく盛り上がった蓋(ふた)と、その真ん中を帯状に横切るように張り付いた黒色の鉛板が強烈な印象を与える国宝《舟橋蒔絵硯箱(すずりばこ)》は、よく知られる作品だろう。ピンとこないという人は、ぜひこの機会に見てほしい。古今東西、これほど度肝を抜く硯箱は、否、箱は極めてまれだろう。
献上品の目録などに用いられ、さらに鑑定書にも用いられるようになり、後に「折紙付き」の語源ともなった、本阿弥…
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週刊エコノミスト
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