教養・歴史アートな時間

予想不可能、理解不能、茫然自失 悪夢的出来事が続く怒濤の3時間 勝田友巳

©️2023 Mommy Knows Best LLC, UAAP LLC and IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.
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映画 ボーはおそれている

 開いた口がふさがらない。比喩ではなくて文字通り。「ヘレディタリー 継承」「ミッドサマー」でモダンホラーの旗手となったアリ・アスター監督の新作は、あえて区分けすれば不条理コメディーかダークファンタジーか。主人公ボーに次々と起こる悪夢的出来事は、予想不可能、理解不能、茫然(ぼうぜん)自失の3時間。わけが分からんと怒り出す人もいそうだ。とにかく、すごいものを見てしまった。

 物語の骨格は、母親に会いに行こうとするボーの困難な旅。しかしこの旅路、出発前から普通じゃない。ボーは自宅アパートに入るのに無法地帯を駆け抜け、寝ていればかけてもいない音楽の「音量を下げろ」と書いたメモが何度も投げ込まれる。荷物と部屋の鍵をなくし、自分の家を暴徒に占拠されて外で一夜を明かし、あげくは素っ裸で路上に飛び出して車にはねられ、殺人鬼に襲われる。

 ここまで約30分。どうしてこんなことになるかは映画を見てもらうしかないのだが、そして見たところで理由は説明されないが、これは序の口。第2幕で愛想はいいが怪しげな医者一家に足止めされ、第3幕では森の中の奇妙なコミュニティーに合流する。すったもんだで母親の家にたどり着くと、ここでも仰天の展開が待っている。

 言ってみれば延々と、休みなく続くびっくり箱。どれも違う仕掛けが施され、アッと驚くことになる。開いた口を閉じているヒマがない。論理も脈絡も飛び越え、感情のつながりも無視しながら、予想の斜め上を裏切っていく。唯一一貫しているのは、逃げ惑うボーのおびえた顔である。不条理な暴力に脅かされるボーを見て、あっけにとられるばかり。

 そして画面には、情報がぎ…

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週刊エコノミスト

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