2024年のスタートアップ投資は適正化へ 徳谷智史
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金融市場が調整局面に入り、スタートアップの真価が問われている。成長力が強く問われ、引く手あまたの一部の企業に資金は集中し、二極化が進む。
生成AIベンチャーに資金集中 進む二極化
2023年は、スタートアップの真価が問われる一年だった。金融市場が調整局面に入ると、スタートアップの明暗は大きく分かれた。多くのVC(ベンチャー・キャピタル)から引く手あまたの一部の企業と、資金調達に苦戦する企業に二極化した。24年もこの二極化がスタートアップ投資のキーワードとなりそうだ。
少し前まで状況は違った。コロナ禍前の18年から22年初頭にかけては、スタートアップ投資はバブルの様相を呈していた。
バブルを引っ張っていたのはインターネット経由でソフトを提供するSaaS(サース)(クラウド型サービス)銘柄だ。その後、コロナ禍で飲食や観光業界が打撃を受ける中でも、非接触や巣ごもり需要に支えられ、DX(デジタルトランスフォーメーション)銘柄が大きく伸びた。
しかし23年、潮目は大きく変わった。世界的な金融引き締めなどを背景に、スタートアップの出口戦略であるIPO(新規株式公開)が多くの分野で停滞している。1社当たりの資金調達動向をグラフ化すると、一目瞭然だ(図1)。表と合わせて読み取ると、10億円以上の資金調達をした企業数は、三つの領域とも30%台の減少率だが、図の調達額平均値の下落は、大型調達のケースが減った影響が特に大きいとみられる。投資家はリスク回避を優先するようになり、全体的に投資は低迷していると言わざるを得ない。
目利き冷静に
しかし見方を変えれば、これは“スタートアップ投資の適正化”ともいえる。
「とりあえずお金を突っ込んで、未来で回収すればいい」。コロナ禍では、投資家のこうした楽観的な発言をよく聞いた。投資判断の主な指標は、足元の売り上げが伸びているかどうかだった。もちろん、中には投資を「未来で回収」できるスタートアップも含まれていたが、投資家の目利きが十分に行われていたとは言い難い。
バブルが弾けた今、スタートアップの成長力が真に問われるようになった。環境が変わっても事業の成長は持続するのか。収益の源泉はどこにあるのか。投資家たちがチェックする項目は、足元の売り上げだけでなく、経営効率や採算など細かい点にも及んでいる。
この変化にもっとも影響を受けたのは、調達後期のスタートアップだ。
多くのスタートアップはIPOまでの数年間、数回にわたって資金調達を行う。追加の資金調達では回を追うごとに評価額、つまり株価を上げていくことが望ましい。
しかし少し前のバブル期にいわば高値で調達を行い、調達後期を迎えるスタートアップの状況は厳しい。図2は、事業フェーズ(シリーズ)別の調達額中央値の推移だ。本来、スタートアップの成長にあたっては、最初のフェーズ(シード)からA→B→…D以降と、段階を追うごとに調達額は伸びることが望ましい。22年以降は全体的に減少傾向であるものの、シリーズD以降の推移からその厳しさがうかがえる。市況の悪化や投資家のシビアな評価に耐え切れず、前回の株価を下回る資金調達、いわゆる「ダウンラウンド」になった企業も少なくないのではないか。
ダウンラウンドは、もともとスタートアップに投資していた株主にとっても深刻な問題だ。株価が下がった状態での調達は「未来での回収」を難しくするからだ。既存の株主の反対を受けてダウンラウンドを避けた結果、市場の評価との乖離(かいり)が発生し、資金調達がより難しくなる事例も、23年には数多く目にした。
思うように調達ができないと、スタートアップの経営にも暗雲が垂れこめる。多くのスタートアップにとって成長の源泉は人材だ。それにもかかわらずリストラや採用の一時停止を余儀なくされるケースもあり、実際に最近のスタートアップではこうした事例を耳にするようになった。
米国でも進む二極化
米国での調達環境はさらにシビアだ。筆者が代表を務めるコンサルティング・VC会社「エッグフォワード」(本社・東京都)では、10年以上国内外のスタートアップを経営・組織コンサルで支援してきた。23年に新ファンドを立ち上げると、米シリコンバレーのスタートアップからの投資依頼が増えた。「シリコンバレーのローカルVCからの調達が難しくなっているから」という。
世界的な金融引き締めなどを背景に、VCによるスタートアップ投資は全体的に減速気味だ。米国でも日本と同じように二極化が進み、資金調達に苦戦するスタートアップが増えている。
例えば、22年末に米大手暗号資産(仮想通貨)取引所「FTX」が破綻したことも相まって、関連のスタートアップは大きな影響を受けた。暗号資産を含む、ブロックチェーン技術を使った「ウェブ3.0」(分散型ネットワーク)関連のスタートアップ…
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週刊エコノミスト
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