“眼鏡の鯖江”の商議所がDXとAIに活路 浜田健太郎・編集部
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日本の中小企業には宝の山が眠っている。全国各地の地場産業をデジタルで武装し、その底力を大阪・関西万博で世界に示そうと北陸の地方都市が動き出した。
全国の商工会議所と連携狙う
2024年1月1日に発生した能登半島地震により甚大な被害を受けた石川県能登地方。1カ月半が経過した現在(2月15日時点)も1万3000人以上が避難生活を強いられる中で、被災地の輪島、珠洲(すず)、七尾の3市の事業者が2月、東京・青山と銀座で伝統工芸品の展示会を行った。被害を免れた輪島塗や珠洲焼などを展示し、その場で販売も行った。
2月6日、青山での展示会のオープニングで、七尾商工会議所の杉野哲也会頭は、「地震が私たちの日常を一変させた。復興の道のりは険しいが、地域社会との連帯が私たちを支えている」と述べた。展示会は、石川県に隣接する福井県が都内2カ所で構えるアンテナショップで行われ、福井県と同県の鯖江商工会議所が開催した。
能登地方の3市の商工会議所と、眼鏡の産地で知られる鯖江商工会議所は、DX(デジタルによる変革)やAI(人工知能)の活用を通じた伝統産業の活性化を狙い、23年から連携を始めていて、それが、支援イベントのきっかけとなった。鯖江や石川県3市の商工業者は、3D(三次元)のバーチャル(仮想)空間で、眼鏡や漆器などの地元産品の販売を行い、産地の情報を世界に発信する仕組みを昨年から始めていた。
このDXの取り組みには、和歌山県の中小企業が参加する意向であるほか、全国各地から問い合わせが相次いでいるという。
商工会議所は全国に515カ所あり、約120万社の中小企業が加盟。このネットワークを通じて、大企業に比べて人材、情報、資金で見劣りする中小企業に、ITインフラを一気に拡大しようと構想する旗振り役が、鯖江商工会議所の田中英臣氏だ。田中氏は、「従来は日本の中小零細企業のモノづくりを世界に届けることなど、不可能だったが、バーチャル空間を通じてそれが可能になった」と力を込めて語る。
スマートグラスの開拓者
熱意あふれる田中氏の口調に背中を押され、筆者は2月中旬に鯖江市で取材した。同市は、日本で生産される眼鏡フレームの9割以上を手掛けることで全国的に有名だ。ただ、平成時代には中国産の安価な製品に押され、福井県産の眼鏡関連の出荷額は最盛期(2000年)の約1226億円から11年には507億円に落ち込んだ(図)。福井県における眼鏡関連の企業数も、1999年の1129社から21年には208社まで減少した。
消費者の好みが多様化した30年あまりで、眼鏡に対する市場のニーズは、「視力を矯正する道具」もしくは、「自己表現するためのファッションアイテム」に二極化した。前者は1万円前後かそれ以下で大量に販売される市場を形成し、後者はこだわりを持つ愛好家を引きつけた。後者を代表する鯖江企業の一つが、1984年創業で眼鏡の企画販売を手掛けるボストンクラブだ。
創業者で同社代表取締役の小松原一身氏は、鯖江の眼鏡産業について、「生産本数は、最盛期の3分の1に落ち込んだけど、単価は最盛期の2倍くらい。フランスのカルティエなど10万円以上する高級ブランドへのOEM供給の多くは鯖江から」と説明した。
同社がいま注力するのが、カメラ機能や映像の表示、通信機能などを備えた「スマートグラス」だ。その先駆けとなったのが米IT大手グーグルであることは有名だが、ボストンクラブは、「グーグル・グラス」のフレーム開発に協力。この分野の開拓者として名を連ねた。
「12年に、香港での眼鏡の展示会に出展していたところ、グーグルのエンジニアが来て、『鯖江に行っていいか』と聞いてきた」(小松原氏)ことが出会いだった。グーグルが求めていたのは、軽くて強度に優れる最高級の日本製チタンと、圧延やスポット溶接で高い技術を持つ鯖江の職人たちだった。「我々はチームを組み、(グーグル・グラスを)3年間で10万本以上供給した」(同)という。
この時の経験が生きて、ボストンクラブはスマートグラスの開発を継続。3月末に福井県で開催される「ふくい桜マラソン」では、10人のランナーが、同社とオーディオテクニカ(東京都町田市)、福井県工業技術センターが開発したスマートグラスを装着して走る予定だ。ランナーは、ペースタイムや走行距離、心拍数などがグラスを通じて確認できるため、従来のようにスマートウオッチを見る必要がなくなり、その分負担軽減が期待できるという。
最新技術と伝統の融合
鯖江は古くから漆器の産地としても知られてきた。その伝統を引き継ぐ下村漆器店(1990年創業)は昨年、IH(電磁誘導加熱)調理器で調理するための食器とトレーを開発した。トレーには3カ所にコイルが入っており食器を加熱する。食器には、水に浸したコメ、味付けした肉や魚、野菜などの食…
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週刊エコノミスト
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