鍵こそ古代ヨーロッパの歴史・文化を読み解く「キー」である 楊逸
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世の中が良くなってほしい。自分も幸せになりたい──新しい一年を迎える際にそう切実に祈っていたのに、なんと地震が元日に起きた……。
『聖書』の『マタイによる福音書』によれば、神様は天の国の鍵をペトロに授け、「あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる」と告げた。
『西洋の鍵 4千年の歴史にみるすぐれた機能とデザイン』(ジャン=ヨーゼフ・ブルンナー著 いぶきけい訳、グラフィック社、2970円)によると、「鍵またはそれと見なされるオブジェの最古の痕跡が、現在のイラクで発見され」、そして関係文献(楔形(くさびがた)文字を刻んだ粘土板)もメソポタミア文明の中心地、首都バビロンだったところで見つかったという。
鍵の一種を表す「Naptar/stu(m)」は「紐解(ひもと)く」を意味するPataryに由来し、鍵の語源になったのではないかとも本書には書かれている。ということは金属が作られるようになる前の太古、秘密を守るのにもっぱら「紐」が活用されていたことを想像させる。ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』には古代ギリシア鍵について「〔老女は〕部屋を出て、銀の把手(とって)を掴(つか)んで扉を閉め、革紐を引いて内側の閂(かんぬき)をかけた」との描写があり、紐は青銅製の鍵ができてからも併用されていたようだ。
エジプト、ギリシャ、パレスチナ、ローマなど古代遺跡が多いという地域を中心に発見された種々さまざまの鍵。「モノのなかにモノを閉じ込めて開けるという実用性」のほか、階級と権力の象徴でもあったため、美しく精巧に作られたものばかりだ。
それらの形(L字型から、T、S、十字型など)、材質(青銅、錬鉄、スチール)、大きさ(50センチから5センチまでに小型化)、デザイン(剣型、蛇型、指輪型、四葉型等々)、用途(神殿、王の棺(ひつぎ)、教会、皇室、住居)な…
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週刊エコノミスト
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