日本の活火山/5 十勝岳(北海道) 泥流被害の教訓で「砂防」定着/177
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活火山の山麓(さんろく)で大雨が降り、火山灰などが川に流れ込むと、河道が閉塞(へいそく)して「泥流」が発生する。寒冷地で積雪期に噴火が起きた場合には、雪解け水が「融雪型火山泥流」と呼ばれる極めて危険な現象となる。
1926(大正15)年5月、北海道中央部にある活火山・十勝岳の山頂西側で水蒸気爆発が起こり、中央火口丘の大部分が崩壊して高温の「岩なだれ」が発生した。大量の熱は急速に残雪を溶かし、流れ出した土砂が1分後に火口から2.4キロメートルの距離にあった硫黄鉱山の事業所に到達。25人の命を奪った。
さらに、泥流は川底を削りつつ体積を増しながら富良野(ふらの)川と美瑛(びえい)川に沿って甚大な被害をもたらした。速度は時速60キロメートルで、25キロメートル下流にある上富良野村(現・上富良野町)と美瑛村(現・美瑛町)に24分で到達した。
泥流には1メートルを超す岩石と流木が大量に含まれていた。富良野原野の開拓地を襲った泥流は、総数144人の犠牲者を出し、損壊建物は372棟に達した。「大正泥流」と呼ばれる著名な火山災害で、三浦綾子の小説『泥流地帯』に被害の全貌が克明に描かれている。
ワイヤで発生検知
十勝岳は昭和に入ってからもたびたび大きな噴火を繰り返し、88~89年には火砕流や泥流を噴出した。その後、泥流被害を最小限に食い止めるため、十勝岳の周辺では「砂防」と呼ばれる工学的な対策が施されている。その一つが、上流で発生した泥流を直ちに検知して住民に「避難指示」を出すシステムで、川を横切って張られたワイヤを泥流が切った際、自動的に警報が鳴る仕組みになっている。
次に、泥流そのものの力を弱める方策も取られている。川の上流で泥流が広がらないように、「導流堤」と呼ばれる大きな柵で流れ下る道筋を制御する。さらに、泥流が川底にある岩石を取りこんで破壊力を増すことを防ぐため、川底をコンクリート…
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週刊エコノミスト
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