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教養・歴史 書評

江戸随一の観相家に学ぶ健康・長寿の秘訣 高部知子

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 20年以上前、まだ30代だった私がもっとも熱心に読んでいた本は「本の読み方」、いわゆる「読書術」に関する本だった。あの頃の私は読みたい本が多すぎて、しかし1冊読むのに最低3日、長いと5日はかかってしまうので、部屋が本であふれていた。そこで必要な情報を的確に手に入れられる「読書術」を身に付けようとしていた。今でもこの類いの本は多く出版されており、さまざまなテクニックが紹介されているが、50代になった私はどうやら読み方が変わってきたらしい。最近、新書1冊読むのに1週間以上かけたりするのだ。本を「味わいたい」、一言でいうとそんな感じ。時間の余裕ができたわけじゃないが、若い頃より本が味わい深く感じるのだ。

 今回私がそのように読んだ本は『江戸の少食思想に学ぶ 水野南北『修身録』解題』(若井朝彦著、小学館新書、1056円」。江戸時代に生きた観相家・水野南北について書かれた本だ。南北は人の顔を見ただけで、その人が過食か少食か、身体のどこが病んでいるか、それにより豊かに生きているか貧しているか、長命か短命かまでピタリと当てたという。こう要約すると「当たるも八卦(はっけ)当たらぬも八卦」的な人相占いのように聞こえるが、南北のそれは違い、「食と命の関係性」を鋭く指摘している、というのが本書の主張だ。

 江戸時代は現代よりずっと長いあいだ、戦争のない平和な時代だった。すると人々は食に多様性を求め、暴飲暴食も横行していたという。このあたりの描写は令和を生きる我々も同様に感じるが、今でいう生活習慣病が蔓延(まんえん)していたようだ。「食が顔に出る」というのは本当で、一番わかりやすいのは「酒(しゅ)さ」かと思うが、これはお酒の飲み過ぎにストレスなどが加わると全身に現れる炎症性疾患のことだ。加藤茶さんや志村けんさんがコントで酔っ払いを演じる時、鼻の頭を赤くするアレが「酒さ」。これなら素人でもすぐ…

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