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マイナス金利は解除されても追加利上げはせいぜい年内1回 宮嶋貴之
日銀はマイナス金利政策やイールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利操作)などの解除を決定し、金融政策は正常化に向けた第一歩を踏み出した。もちろんこれは金融政策の歴史上、大きな転換点であり重要な決定だ。
ただし、金融政策修正による日本経済への直接的影響は限定的とみるべきだろう。植田和男日銀総裁も記者会見(3月19日)で述べていたように、短期政策金利は引き上げられたとはいえ、上昇幅は0.1%ポイントにとどまり、貸出金利や預金金利が直ちに大きく上昇するわけではない。また、実質金利はいまだ大幅なマイナス圏にあるため、金融環境は引き続き緩和的なままだ。
長期金利コントロール政策や上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(J-REIT)の新規買い入れについても、事実上形骸化していた政策を正式に解除する決定をしただけだ。
長期国債の買い入れも、月6兆円程度の買い入れは継続され、金利急騰時は機動的なオペで対応する余地も残された。これらの措置は、今後の金融政策がこれまでと非連続的にならずに、金融緩和的環境が続くようにするという日銀の意図がある。
今後は物価情勢次第
より重要な点は、今後の金融政策運営は、経済・物価情勢次第の面が大きくなったということだ。植田総裁は現状の経済・物価見通しを前提とすれば、金融緩和的環境を続ける必要があると記者会見で繰り返し指摘した。つまり、裏を返せば、その前提が変われば、今後の金融政策の方針も大きく変わりうるということだ。最も重要なポイントは、2%物価目標達成の確度となるだろう。
日銀の展望リポート公表のタイミングでいえば、4月の金融政策決定会合時点では、さすがにデータの蓄積が不十分のため、2%物価目標達成の確信を得るのは困難だろうが、その後の物価統計次第では、早ければ7月の金融政策決定会合時に、物価見通しが上方修正されて、2%目標達成の実現見込みがさらに大きくなったとして、追加利上げが実施される可能性はゼロとは言い切れないと筆者はみている。
とはいえ、これらは現段階ではメインシナリオとは言えない。現状の物価情勢をみると、先行指標の輸入物価下落を受けて、食品を中心に財価格の減速が続くと想定される。一方、春闘の方針を受けた賃上げの実施は、夏場にかけて本格的に広がってくるとみられ、サービス価格主体にCPIが2%超の伸びを維持できるかどうか、数カ月分のCPI結果を今後確認する必要があろう。
現状はまだ2%目標の達成に向けたラストワンマイル(サービス価格の上振れ)が残されている。中長期期待インフレ率(ブレークイーブンインフレ率)が、いまだ1.3%弱にとどまっていることから示唆されるように、債券市場も目標達成にはまだ懐疑的とみられる。
従って、現段階のメインシナリオは、今年中に1回の追加利上げができるかどうか、といった想定になろうが、結局はデータ次第、特に物価情勢に大きく左右される。ここ3カ月の動向の見極めが特に重要になるだろう。
(宮嶋貴之、ソニーフィナンシャルグループ・シニアエコノミスト)
週刊エコノミスト2024年4月9日号掲載
マイナス金利解除 日本経済への影響は限定的 緩和的な金融環境は継続=宮嶋貴之