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1国1社の旅客機ビジネス 経産省が“複数社連携”を視野に次期戦略案 吉川忠行
三菱重工業のリージョナルジェット機「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」開発中止から1年。経済産業省は3月27日、2035年以降をめどに次世代の国産旅客機の開発を官民で進める航空機産業戦略の改定案を示した。旧MRJの反省をどう生かすかが問われる。
日本の完成機事業は、半民半官の日本航空機製造(1982年解散)が62~73年に製造した戦後初の国産旅客機YS11以降途絶え、MSJは08年に事業化された。当時の名称MRJは「三菱リージョナルジェット」の略で、地方都市を結ぶ100席未満の機体として計画された。当初の納期は13年だったが6度の延期を経て、23年2月に開発中止が発表された。開発費は総額1兆円とされる。
三菱など日本の重工各社は、米ボーイングのティア1(1次請け)として中型機787などの主翼や胴体といった主要構造部位を製造しているが、完成機は手掛けてない。自衛隊機は完成機を製造しているが、民間機では機体の部分的な参画などに限られている。
民間機は製造国が安全性を認める「型式証明」を取得しなければならず、機体を製造するノウハウだけでは実現できない。安全基準の要求も年々上がり、ただでさえ民間機製造にブランクがある日本にとって、型式証明を取得できる機体を作ることは難しい。
経産省は今回の次世代機計画で、MSJの失敗をどう生かすのか。今後の方向性を示す資料では、旅客機を開発する技術やノウハウの不足に加えて、事業体制も日本の航空機産業に欠けていると指摘。民間機は最低でも初納入から航空会社が運航する20年程度は部品などの面倒を見る必要があり、機体の寿命は半世紀に及ぶ。 自衛隊に引き渡されたYS11は55年も飛び続けたが、1機でも運航中の機体があれば、メーカーはアフターケアに対応し続けなければならない。「作っておしまい」ではなく、アフターケアをどうビジネスにするかという視点が不可欠だ。
MSJ最大のライバルとされたのは、ブラジルのエンブラエルが製造する最新リージョナルジェット「E2」だ。同社は官民両方の機体を手掛けるとともに、機体整備の子会社も持ち、アフターサービスまでビジネス化して販売している。
ホンダジェット好調
一方、ホンダの子会社が開発当初から米国を拠点に開発したビジネスジェット「ホンダジェット」は好調だ。乗員10人未満と小さいが、型式証明の取得に必要な人材確保やアフターケアまで見通されている。機体に加え、販売後も見据えたビジネスモデルも秀逸だ。経産省は1社単独ではなく、複数社による連携を視野に入れているが、YS11の教訓を生かしつつ、世界的潮流である1国1社による旅客機ビジネスを練り上げられるかが、機体設計以外の大きな課題になる。
(吉川忠行・『Aviation Wire』編集長)
週刊エコノミスト2024年4月16・23日合併号掲載
航空機産業戦略 MRJの重い教訓 1国1社体制構築を=吉川忠行