座談会 20世紀末を四大経済学者で解く~スミス、マルクス、ケインズ、シュンペーターが現在をみれば ③(1994年1月4日)
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1990年代半ば、日本経済はバブル崩壊に苦しみ、世界経済は「社会主義崩壊後」の新秩序はどうなるかの問題に直面していた。混沌とした時代をスミス、マルクス、ケインズ、シュンペーターという経済学の巨頭ならどう考えたのか--。3人の経済学者が議論を交わした座談会を3回にわたって再録する。※記事中の肩書、年齢等は全て当時のままです。
座談会 バブルと社会主義崩壊 20世紀末を四大経済学者で解く
スミス、マルクス、ケインズ、シュンペーターが現在をみれば
20世紀末、社会主義体制は崩壊し、先進資本主義国もバブル崩壊に苦しんでいる。経済学200年の英知はこれらを解明できるのか。スミス、マルクス、ケインズ、シュンペーターの学説の中から新しい経済学のあり方を探る。
大内秀明×水田洋×伊東光晴
(3)これからの経済学
-- では最後に、これからの経済学の可能性に話を進めたい。
水田 スミスが『国富論』を書いたそもそものきっかけは、価値、豊かさとは何かということだった。要するにカネばかりではなく、生活が豊かになることとは何かを問うた。これからの経済学のあり方という点では、スミスの体系であり、ケインズ、ハロッドも言った「モラルサイエンス」の一部分としての経済学が必要だ。
モラルは、日本では文部省の道徳教育という悪いイメージにとられるが、利己的な人間が平和的に共存するための取り決め、つまり、風俗、風習とでもいうべきものだ。ところが日本語では風俗は風俗産業の領域におとしめられ、道徳は手のとどかないところから威圧する。
満ち足りた多数派
伊東 いま世界的に先進資本主義国がかなり不況だが、1930年代の深刻さはない。30年代はまさに体制の危機があったが、いまやそれはない。これはなぜであるかということを考える必要がある。
アメリカは、60年代から70年代にかけてケインズ的な政策が定着し、長い繁栄を経験した。そして自由放任の国であったアメリカに、初めて福祉政策が登場し、それが急速に拡大した。世界を圧するアメリカの軍備よりも福祉支出が大きいというのは80年代の初頭である。
ケインズ的な福祉国家の成功は、「満ち足りた多数派」というものを生んだ。彼らは国家の政策をもう要らないと考えた。それよりも自分たちは勝手なことをしたいのだと。だが80年代に完全雇用の状態が正常だとする新古典派経済学が復活し、レーガン、サッチャーが生まれた…
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週刊エコノミスト
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