ASMLホールディング 半導体製造用露光装置の世界最大手 永井知美
ASML Holding 最先端装置の独占企業/112
ASMLホールディングは半導体の製造に不可欠な露光装置の世界シェアが9割に達するオランダ企業だ。オランダの大手企業2社が1984年、後に現社名に改称する合弁会社「ASMリソグラフィー」を設立した(リソグラフィーは露光装置の意味)。
日本勢を凌駕
露光装置とは写真技術を応用して複雑で微細な回路パターンを半導体の基板材料であるシリコンウエハーに転写する機械だ。半導体の製造過程のうち、ウエハー上に電子回路を形成する「前工程」で使う。半導体メーカーは露光装置を用いて回路線幅を微細化して性能を向上させ、多機能化してきた。
ASMリソグラフィーは創業当初、業績が安定しなかった。親会社2社のうち半導体製造装置のアドバンスド・セミコンダクター・マテリアルズ・インターナショナル(現ASMインターナショナル)は88年、保有株式の売却に追い込まれた。ASMLのウェブサイトに載る説明によれば、同社は91年に新製品PAS5500を市場投入するまで「露光装置市場でニコンとキヤノンという巨人に大差をつけられた3位だった」。同製品がヒットしたことで業績が好転し、95年にオランダ・アムステルダムと米ニューヨークの両証券取引所に上場。もう一つの親会社、電機大手フィリップスは保有株式の半分を上場時に売却し、その後残りも手放した。
ニコンとキヤノンは主要部品を内製し、研究開発の自前主義が強かった一方、ASMリソグラフィーは主要部品のレンズすら外注し、組み立てとソフトウエア開発に注力した。回路線幅の微細化は限界に達したといわれた90年代末ごろ、レンズの性能は日本勢が上回っていたが、ASMリソグラフィーはレンズを液体に浸して屈折率を高める方法に転換し、さらなる微細化に成功。2001年にASMLホールディング(以下、ASML)に改称した。00年代には、同時に二つのウエハーを処理するダブルスキャン技術と、液浸露光の実用化で日本メーカーを追い抜いて首位に立った。
EUVを独占供給
露光装置の光源は紫外線(UV)、遠紫外線(DUV)、極端紫外線(EUV)の順で波長が短くなる。波長が短いほど解像度が高く線幅の狭い半導体回路を焼き付けられるが、技術的難易度が高くなり、開発費が莫大(ばくだい)になる。
同社は12年、米インテル、台湾積体電路製造(TSMC)、韓国のサムスン電子の半導体大手3社からEUV露光装置の機能向上に要する開発費の一部を受け取って完成品を優先供給する代わりに、ASMLの発行済み株式の計23%を3社に取得させる共同投資事業に合意した。日本の2社も開発…
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週刊エコノミスト
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