道路の変容から歴史の裏面をたどる視点に独自性 今谷明
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今回は、前近代におけるインフラ整備関係の著作を取り上げよう。金田章裕著『道と日本史』(日経プレミアシリーズ、1100円)は、人文地理学界の重鎮による道路史の概説書で、地図や遺構写真も多数掲載され、わかりやすく読みやすい好著といえる。
著者は元来、古代日本を地理・地形によって読み解く専門家のようだが、本書では奈良・京都周辺を中心にして、道路の変遷を官道から私道まで含めてかなり詳細に展開している。その点では、簡易な新書版ではあるが、類書の少ない貴重な著作と思われる。
道路といえば、時代が下るに従って幅員(道の幅)が整備されていったと考えたくなるが、事実は逆で、古代の官道が最も幅広く(横幅10メートル以上)、近世は五街道(江戸時代に日本橋を起点とした五つの街道)以下、曲がりくねった幅数メートルのところが多かった。中世、特に室町時代あたりは最も道路が荒廃した時期で、幕府や守護による道路の維持管理を示す史料がほとんど知られていない。
余談ながら、室町期の陸運荒廃に対し、水運は別で、1445年の兵庫港に入港した船舶の税関台帳が残っているが、それによると年間の入港船舶は数千に及び、同時代の西欧のリューベック(ドイツ)などは数百にすぎなかったから、ケタ違いである。
本書で面白いのは、江戸幕府が首都江戸を守るためにわざと「難所」を残したことで、大井川に橋をかけなかったり、東海道を御殿場まわりでなく…
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週刊エコノミスト
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