教養・歴史 アートな時間

地面師事件を素材に日本人のメンタリティーを問う 濱田元子

©︎JACROW#33「ざくろのような」/2023年6月
©︎JACROW#33「ざくろのような」/2023年6月

舞台 JACROW#35「地(ぢ)の面(つら)」

 電気自動車のバッテリー開発を巡る会社と個人のあつれき、闇将軍と言われた政治家・田中角栄の盛衰と時代──。中村ノブアキ率いるシアターカンパニー「JACROW」は、政治やビジネスを題材にした硬派な会話劇で、現代演劇界をけん引する。

 中村自身が、会社員との両輪で演劇活動をしているということも、スリリングな設定や会話に唯一無二のリアリティーを与えている。昨年の紀伊国屋演劇賞・団体賞をはじめ、所属俳優の狩野数馬が読売演劇大賞優秀男優賞を受賞するなど評価は高い。

 そんな中村が新作「地(ぢ)の面(つら)」(中村脚本・演出)でモチーフに取り上げたのは、他人の土地の所有者を装って土地の購入代金をだまし取る、いわゆる地面師による詐欺事件だ。「被害者である企業側の視点で、事件のある一面を描き、日本人特有のメンタリティーをあぶり出したい」と中村は狙いを明かす。

 きっかけは、東京五輪を前にして、不動産業界がバブルに沸いていた2017年に起きた、大手住宅メーカーが55億円あまりをだまし取られた事件だ。なぜ一流企業が詐欺にひっかかってしまったのか。世間の大きな関心を呼んだのは記憶に新しい。

 物語も大手住宅メーカーが舞台となる。ある土地の取得に失敗して挽回を狙っていたところ、所有者がこれまで絶対売らないと言っていた土地が売りに出されるという極秘情報を手に入れる。その土地取得を巡る攻防に、社内のドロドロの権力抗争が絡み合う。

 実際の事件では、真の所有者の確認作業を怠っていたり、警告が届いていたのに取引を妨害したい者からの「嫌がらせ」だとして取り合わなかったりして…

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週刊エコノミスト

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