金価格上昇で考える米株価と世界景気 渡辺浩志
金は通貨を代替する資産であるため、ドル建ての金価格は、ドルの価値を表す米国の実質金利と連動してきた(図1)。
だが、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻と同年3月の米国の金融引き締め開始を境に、この連動性は途切れた。金価格が実質金利の動きに反して上昇する理由として、次の三つがある。
第一は「有事の金買い」だ。ウクライナ戦争や中東有事を受け、22年以降の国際情勢は緊張状態にある。金はどこの国でも通用する決済手段であり、有事の際に安全資産(無国籍通貨)としての需要が高まる。
第二は「中央銀行による金購入」だ。22年、西側諸国はロシアの外貨準備を凍結した。それ以降、経済制裁におけるドルの武器化を警戒した国(主に中国)の中銀が米国債を売り、金購入を急いでいる。
第三は「中国人の金購入」の増加だ。背景には、中国の株価や不動産価格の下落基調が続いていることへの失望と、それを招いた習近平政権への信認の低下がある。
以上の通り、金価格は、かつては米国の金融政策(実質金利)に左右されていたが、現在は世界のリスクを映す鏡となっている。
地政学リスクと米景気は…
そのような中、銅価格が上昇していることも見逃せない。銅は多様な産業に不可欠で、価格は世界の景気を反映する。半導体需要の循環回復による世界の製造業景気の好転が銅価格を押し上げている。
興味深いのは、銅と金の価格比が株価と密に連動してきたこと…
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週刊エコノミスト
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