資源・エネルギー FOCUS

第7次エネ基の策定着手 基調は原発“推進” 土守豪

焦点の一つは原発(東京電力柏崎刈羽原発)
焦点の一つは原発(東京電力柏崎刈羽原発)

 経済産業省は5月15日、第7次エネルギー基本計画(エネ基)策定の議論を始めた。素案を年内までにまとめ、2025年3月までに閣議決定する見通しだ。

 エネ基は国のエネルギー政策の長期方向性を示すもので、3年に1度改定する。50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成への全体像を描く。同日開いた有識者会合には斎藤健経産相が出席。「エネルギー政策における戦後最大の難所であると強い危機感を持っている」と国内外でのエネルギー情勢激変の中でのエネ基策定の困難さを指摘した。

 ロシアのウクライナ侵略、中東情勢の緊張などの世界の地政学リスク上昇は新たなエネ基策定を複雑にする。さらに国内の電力需要が20年ぶりに増加傾向になっていくこともエネ基策定の視界を不良にする。

 電力需要の増加見通しの主因は、AI(人工知能)に関連したデータセンター(DC)や半導体工場の新増設だ。経産省の認可法人である電力広域的運営推進機関(広域機関)が24年1月に発表した24年度以降の全国の需要電力量は増加傾向となった。広域機関の予測では、24〜29年度にかけて電力需要が年率0.6%程度で増加する見通しだ。

 21年10月に策定した第6次エネ基は、30年度のエネルギーミックス(電源構成)目標として、再生可能エネルギー電源を36〜38%、原子力発電を20〜22%と定めた。22年度実績は再生エネが21.7%、原子力が5.5%にとどまっている。

 有識者会合では30年度エネルギーミックス進捗(しんちょく)状況を点検しつつ、35年度や40年度を見据えた新たな目標を検討するようだ。日本は25年2月までに国際連合に次期温室効果ガス排出削減目標「NDC」を提出する。NDCでは35年目標が推奨されている。さらに政府は40年を見据えた脱炭素国家戦略であるグリーントランスフォーメーション(GX)2040ビジョンを年内にまとめる。エネ基は同ビジョンや政府の地球温暖化対策計画と連動させる。

原発推進派が大半

 35年度や40年度を対象にする第7次エネ基でも再生エネと原子力のエネルギーミックス比率は焦点となる。

 23年2月に閣議決定したGX基本方針は原子力について、次世代革新炉への建て替えや運転期間の延長などを盛り込んだ。第6次エネ基に明記された「可能な限り原子力依存度を低減する」ことを覆したのだ。

 原子力への注目が高まる第7次エネ基だが、肝心な有識者会合の議論では意見の偏りが目立つ。会合の委員は原子力推進派が大半を占めるからだ。5月15日の会合では多くの委員から原子力の再稼働や新増設を求める声が相次いだ。

「聞く力」を看板とする岸田文雄首相は、エネ基の検討でもさまざまな立場からのバランスのとれた意見を聞いてほしい。

(土守豪・環境ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2024年6月4日号掲載

FOCUS エネ基 40年見据え新目標 原子力推進に偏り=土守豪

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